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存在 6話

「読み聞かせ?」 「寝てるアナタの側で嘉樹が絵本を読んであげてたの」 「えっ?アイツ、文字もう読めるのか?」 絵本をパラパラ捲ると小さな子供には難しいカタカナも書いてある。 「違うわよ、マコト君に読んでもらうから覚えちゃったの」 「へえ~嘉樹凄いな」 光一は絵本を手にyoshiが眠るベッドへと向かう。 子供の寝顔は天使。光一もそう思う。 柔らかくてフワフワしたyoshiの髪を撫でる。 自分の血を引く息子。 生まれた時はただ嬉しかった。 その先を考えていなかったんだ。 親に愛された記憶がない自分が子供をどうやって愛せば良いか次第に分からなくなっていた。 可愛くないわけじゃない。 愛していないわけでもない。 自分が不器用だと今更知った。 「おとーしゃん…」 寝言なのか起きているのか…yoshiが光一を呼ぶ。 そうだ、 自分はお父さんなのだと言い聞かせる。 大きな瞳を開けてyoshiが光一を見た。 クリクリとして可愛くて、女の子みたいなyoshi。翔が美少年になると言っていたのを思い出す。 「昨日ごめんな、絵本読んでやれなくて」 光一は謝り頭を撫でた。 「だっこお」 手を伸ばしてくるyoshiを抱き起こす。 「絵本読まなかった代わりに遊園地行こうか?」 「ほんと?」 昨日見た可愛い笑顔をまた見せてくれるyoshi。 「ゆびきりげんまんしょうか?」 「うん」 yoshiは小さな手でぎゅっと拳を握り小指だけを立てる。 その仕草がたまらなく可愛い。 いつの間にか言葉を覚え、ゆびきりとかも理解しているyoshi。 この時に感じたのが子供は一分一秒ごとに成長しているのだと。 光一はyoshiの小さい指 に自分の指を絡めて約束をした。 「嘉樹、昨日絵本を読んでくれてたんだってな、ありがとう」 ゆびきりした後、光一はそう言ってyoshiの頭を撫でた。 「えへへ」 嬉しそうに笑うyoshi。可愛くて、ぎゅっと抱きしめた。 ***** 約束の日、雨になってしまった。 でも、光一はホッとしていた。 前日からアルバムの録音のし直しをしていたから。 どうしても完璧な物を出したくて、本当は嘉樹に構っている暇なんてなかったのだ。 だから明け方から降り出した雨にホッとした。 嘉樹が悲しむとか、そんな事は頭になくて、少し仮眠出来る……そう考えていた。  「コウちゃん、嘉樹君来たよ」 マコトに呼びに来られ驚いた。 電話で美嘉に遊園地は行けないと伝えるようにと朝から話したのに。 「何で?」 「小さい子供には雨だから遊園地行けないとか理解出来ないよ。それに雨でも遊べる場所いくらでもあるでしょ?」 マコトに半分呆れられた。 「俺は眠いんだよ」 「大人でしょ?我慢して」 マコトに無理やり連れて行かれた。 この時、考えてはいけない事を考えてしまった。 子供なんて面倒くさい。そんな酷い事。 一番酷いのは自分だった。 「おとーしゃーん」 yoshiが光一を見つけ走って来た。 お出かけ用の服やリュック。そして期待にワクワクした顔。 「よしき…」 光一はyoshiの前にしゃがみ込む。 「遊園地」 ニコニコと笑う彼。 「嘉樹、お母さんが朝、遊園地行けないって言っただろ?」 少し無愛想に言ってしまった。 眠さや、行けないを理解出来ない幼さにイライラしていた。 yoshiからワクワクした笑顔が消えて、 「いくってゆった…」 とたんに悲しい顔。 「行けないんだ。雨降ってるだろ?」 自分の言葉をぶっきらぼうに否定されyoshiの大きな瞳はあっという間に涙で濡れ始めていた。 「ゆったもん」 涙をためて光一を見るyoshi。 「ゆびきりしたもん」 声までも震えて必死に行きたいを訴えるyoshi。 「ゆびきりしたけど、行けないんだから」 優しさのかけらもない言い方。 「うそつきい」 yoshiはポロポロと涙を零す。 本当はこの時に抱きしめてあげれば良かったんだ。 今なら分かる。  あの時、ワクワクしたyoshiの顔も、  期待を裏切った時の顔も、 後からすごく後悔した。 優しくなかった自分にすごく後悔した。

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