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存在 8話
最低だと分かっているけど何故か他人に言われたら腹が立つ。
豊川のばかやろう…聞こえないくらいの声で呟いた。
******
yoshiはふと目を覚ました。
凄く懐かしい夢を見ていた気もする。
でも、起きたら全て忘れた。
キョロキョロと周りを見て、自分がリビングに居るのを思い出した。
ベッドに居たくなくてマコトにワガママを言ってしまった。
さっきまでアキやマコトと映画見てたのになあと身体を起こして気付く。光一がyoshiが寝ているソファーベッドに顔を伏せて眠っている。
こいつ………、 何やってんだ?
「豊川のばかやろう…」
顔を伏せたままに呟く寝言。
豊川のばかやろう?
俺のタケルにばかやろう?
ふざけんな!
かなりムッときた。
yoshiは拳を握り、 ガツンと光一の頭を殴った。
「いたっ」
いきなりの衝撃に光一は声を上げた。
寝ぼけ眼で顔をあげ、周りをキョロキョロ。
頭がなんだか痛い。何が起こったんだろう?そんな表情。
そして、自分をじっーと見ているyoshiの姿。
「嘉樹……大人になってる」
ぼんやりした顔でyoshiを見つめる光一。
「は?」
意味不明な呟きにyoshiはキョトン。
大人になっているyoshi。
さっきまで小さかったのに。
そして、夢を見ていたのだと気付く。
遠い記憶の中、怯えて、そして哀しげな小さな子供が目の前で成人した姿で自分を見ている。
どれだけ長い時間、彼を1人にしていたのかを思い知らされた。
愛していなかったわけじゃない。
大好きで、愛しくてたまらなかったのに。
「俺、ちゃんと愛してたのに…」
呟いた言葉。
「お前、まだ寝ぼけてんの?大丈夫か?」
光一の目の前で手をひらひらと左右に振るyoshi。
「ごめん」
光一はそう言うとyoshiをぎゅっと抱きしめた。
「うわっ、ちょ、やだ!マコちゃーんhelp!」
いきなり抱きしめられyoshiは暴れると助けを呼ぶ。
その叫び声でマコトとアキがリビングへ走って来た。
「yoshi君どうしたの?」
駆けつけて見れば光一に抱きしめられて暴れるyoshi。
「コイツ、寝ぼけて誰かと間違えてる」
必死に抵抗するyoshi。
「コウちゃん、何やってんの!ほら、離れて」
マコトは力づくでyoshiから光一を引き離す。
引き離された光一はまだ少し寝ぼけているようでボンヤリしている。
「誰と間違えたんだよ」
yoshiはブツブツ文句を言う。
「コウちゃん大丈夫?」
マコトの問い掛けに光一は頷く。
「光一さん水」
アキは気を利かせて水が入ったペットボトルを冷蔵庫から持って来て光一に渡す。
水を一気に飲んで、徐々に意識がハッキリとしてきたみたいで「俺、寝てた?」と周りに聞く。
「爆睡してた」
抱きつかれて余程嫌だったのかyoshiは光一を睨んでいる。
「悪い」
素直に謝る光一。
寝ぼけてたのも半分。 本気で謝って抱きしめたのも半分。
でも、yoshiには本音を言えない。
「ねー、映画は?途中だった」
yoshiが寝てしまい、映画は途中で止められていた。
「yoshiくん、もうちょっと寝た方が良いよ」
「やだ!見る!」
拗ねた顔でマコトを見るyoshi。
その顔は小さい時のまま。
光一には一切見せなくなったyoshiの小さなワガママと拗ねた顔。
「んじゃ、続き見るか~」
光一は背伸びをすると、デッキを扱う。
「もう~コウちゃん、yoshi君、少し休ませないと」
少し眠ったといってもほんの一時間くらいだった。
「どうせ夜寝るんだからさ、良いだろ~」
光一はヘラと笑う。
自分に言わなくなった可愛いワガママを今更ながらやってあげたくなったのだ。
yoshiはヘラヘラ笑う光一を不気味がってはいたが、すぐ横に光一が居ても嫌がる事はしなかった。
それは、マコトの目には仲が良い親子に映っていた。
早く、光一を思い出して欲しいとマコトは願う。
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