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存在 9話

****** 「まだ帰んないのかよ?」 不服そうな表情のyoshi。 時間はもう直ぐ20時。 光一の願い通りに雨になり夕方からのロケが中止になって、ずっと豊川のマンションに居座っているのだ。 アキは夕方に事務所に戻って行った。 その時に光一も帰ると思ったのにずっと居る。 「まさか泊まる気?」 yoshiは全く帰る素振りを見せない光一に嫌そうに聞く。 「あ~、そうしようかな?」 yoshiの帰れよアピールに気付きもせずに光一はそんな返事を返す。 冗談じゃない! タケルとイチャイチャ出来ないじゃないか! yoshiはムッとした顔になり「帰れよ」と無愛想に言う。 「豊川戻るまでは居るよ」 「何で?」 「お前が心配だから」 「は?心配なんてしなくて良いから帰れよ、俺より自分の息子を心配しろよ」 ズキンとくるyoshiの言葉。 嘉樹も大事な息子だと言葉にしたい。 でも、出来ない切なさで一瞬、悲しそうな表情になる光一。 「何だよ、だってそうだろ?まだ8時なんだから智也とかと遊んでやれるだろ?あと、拓也だっけ?お年頃の息子と語れる時間自分で作れよ。時間は自分で作るもんだろ?」 もちろんyoshiには悪気なんてないし、智也達を心配してくれる優しさも持っていてくれるyoshiに嬉しく思う。 でも、胸の痛みは痛さを増すばかりだ。 「yoshiくん、夜ご飯何食べたい?」 微妙な空気を壊したくてマコトは会話を遮る。 「たけ、…豊川さん帰るまで待つからまだ良い」 「たけちゃん遅くなりそうだよ?」 「いいの!待つ」 yoshiはそう言い切った。 豊川に随分懐いているんだな、なんて光一は複雑な思いを抱えてyoshiを見ている。 豊川の名前を口にする時のyoshiは何だか幸せそうな顔で、豊川にヤキモチを妬きそうになる自分がいた。 「豊川戻るまで居るからな」 一言嫌みを言いたくなり、光一は居座る決心を口にする。 **** 豊川はyoshiが心配でたまらなくて仕事を早めに切り上げた。 お土産買おうか?  熱は下がったかな? 夕飯はちゃんと食べたのだろうか? 気付くとyoshiの事ばかり考えていた。 誰かが部屋で待っててくれる。こんなに嬉しい事だとは思わなかった。 去年の今頃はどうしてたっけ? yoshiが居なかった前の事など忘れてしまうくらいに充実している。 自分の部屋の鍵を出して自分で開けようと思ったが、 ああ、開けてもらうのも良いなあって、チャイムを鳴らした。 数秒して開けられたドアから顔を覗かせたのは愛しいyoshiではなく、 光一だった。 チッ、 つい出た舌打ち。 「お前なあ~ただいまもなく舌打ちかよ」 光一はムッとした顔。 「お前、帰ったんじゃないのか?」 「うるせえ、今から帰るとこだったんだよ!」 確かに光一は上着を着て荷物を持っていた。 嫌がらせに残ってやろうと思っていたのだが、 yoshiに智也と風呂に入ってやれだの、遊んでやれだの、ずっと言われ続けて根負けして帰る事にしたのだ。 タイミング良く豊川が帰って来ただけ。 「じゃあ、どうぞ」 豊川はドアを全開させ光一を促す。 くそう!  光一はムッとしながら豊川に近付く。 「フンだ、豊川の馬鹿やろう」 子供みたいな捨て台詞。 「光一」 「何だよ」 「子供か?」 呆れたような豊川の顔。 「嘉樹、熱下がったぞ」 光一はそう言って豊川の横を通り過ぎた。 「そっか、良かった」 豊川はホッとした顔を見せる。 「嘉樹は何でお前にあんなに懐いてんだろ?マコトなら何となく分かるけどさ。」 嫌みの一つでも言うつもりが思いつかない。  その代わり、羨ましい気持ちを言葉にしてしまった。 「お前、本当にヤキモチ妬きだよな」 豊川はつい笑った。 「うるせえ。じゃーな」 光一は手を振り歩き出す。 「嘉樹にいつでも会いに来れば良いだろ?でも、泊まりは断るけどな」 後ろ姿に声をかける。  「うるせえ、言われなくても来てやるよ」 振り返りもせずに返事を返して光一は帰って行った。

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