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記憶 2話
押し付けられた唇はほんの数秒もすると、直ぐに離れた。挑発したyoshiはやはり寝ぼけていたようで、ズルズルと豊川の腕の中で眠り込んだ。
「まったく、困った子だな」
クスクス笑いながらyoshiをベッドへと寝かせる。
ずっと寝顔を見ていたい気もするが、早めに仕事を片付ければ、それだけ長くyoshiに構ってあげられる。
豊川はパソコンを寝室に持ち込むと仕事を始める。
******
カタカタとキーボードを打つ音が何だか心地良くて、 yoshiは幼い頃、義父の仕事場で同じような音を聞きながら眠っていた。 そんな懐かしい音。
目を開けるといつも義父が笑い掛けてくれて、頭を撫でてくれた。
「お父さん」
と呼ぶと凄く嬉しそうな顔をしてくれて、どうしてそんなに嬉しそうな顔をするの?と一度聞いた事があって、そしたら「嘉樹が呼んでくれるから」と答えてくれた。
どうして呼ぶと嬉しいの? そう聞くと「お父さんになれたから」そう言って頭を撫でてくれた。
お父さんはお父さんじゃない?変なの?
そうたずねると「嘉樹のお父さんは…………」そこから先が聞こえない。
口だけが動いて、何かを言っている。
何を言ってるの?お父さん、どうしたの?
何度も何度も聞くけど、声が聞こえない。
もう一度、呼ぼうとして目を開けた。
しっかり開けた目に飛び込んできたのは天井。
あっ…… そっか、夢。 見慣れた部屋。
カタカタとキーボードを打つ音がする方を見ると豊川が真剣な顔でパソコンを打っている。
タケルだったのかあ。 なんて、ホッとした。
綺麗な長い指がピアノを弾いているようにしなやかに動く。
綺麗だなあ。 なんて見とれる。
「ねえ、ピアノ弾ける?」
つい、声に出した。 豊川はその声でyoshiの方を見てニコッと笑う。
yoshiはドキッとした。
幼い時にみた義父の笑顔と重なった。
「弾けるよ」
豊川はパソコンを止め、yoshiのそばへと近付くとベッドの端に座り頭を撫でる。
「朝から仕事?」
yoshiは身体を起こす。
「仕事早く片付ければ嘉樹とイチャイチャ出来るからな」
豊川はyoshiの身体を引き寄せると自分の膝の上に座らせる。
「タケルの仕事してる姿好き、カッコいいよ」
yoshiは甘えるように豊川に抱き付く。
「カッコいいか?それは嬉しいな。もしかしてキーボードの音で目が覚めた?」
抱き付くyoshiに応えるように豊川も抱きしめる。
「キーボード音、懐かしかった。お父さんも良く寝室で仕事してたから」
少し寂しそうな声。
「仕事熱心だった?」
「うん。でも、仕事熱心なのはタケルみたいに早く仕事終わらせて俺と遊ぶ為でさ、俺はいつも仕事終わるのをベッドに寝ころんで待ってた。すぐに寝ちゃうんだけどさ」
yoshiは抱き付いたままに話をするから表情は分からない。でも、寂しそうな顔をしている想像はつく。
「愛してくれてたんだな」
「うん。たくさん愛してくれたよ。凄く大好きな人だよ。だからタケルにも会わせたかったなあ。絶対にお父さんはタケルを気に入ってくれたのに」
「驚くんじゃないかな?親子ほど年が離れてて、しかも男」
「お父さんはナオの恋人にも友好的だったし、いつも言ってた……嘉樹が選ぶ相手ならどんな人でも反対はしないって」
「凄いな嘉樹のお父さんは……」
「うん。だからタケル連れて行っても反対しなかったよ」
「そっか、会ってみたかったな」
「うん。自慢だったもん。母親よりも好きだった」
母親よりも…… そうだ、yoshiからはあまり母親の話は聞かない。
虐待されていたと直に聞いた事を豊川は思い出した。
「嫌い…だったのか?」
「嫌い……ってわけじゃないよ。ただ、あの人が俺を嫌っていただけ。」
yoshiはそう云うと豊川にぎゅっとしがみつく。
何か思い出したのか、小さな子供が甘えるように。
豊川はそんなyoshiを強く抱き締める。
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