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記憶 5話

「今日は朝ごはん一緒に食べれる?」 嬉しそうな顔で聞いてくる智也。 「うん。あ、お父さんが作ってあげようか?」 嬉しそうな智也の顔を見ていると自然とその言葉が出た。 「本当?やったー」 「出来たら呼ぶからもう少し寝てなさい」 そう言うと光一は立ち上がる。 「僕も手伝う」 智也も一緒にベッドを降りた。 手をぎゅっと握ってくる小さな手を握り返すと、光一は一緒に部屋を出る。 ニコニコ笑う智也を見ていると、ああっ、こんな単純な事で良かったんだと、 お金や玩具じゃないとマコトに言われた言葉の意味を今更ながらに実感した。 ****** 「お父さん、お弁当も作るの?お兄ちゃんの?」 智也は光一が朝食の他に料理を作り出したので、その作業をじーっと見ていた。  容器に詰められていくおかずに智也はそう聞いてきたのだ、  「うん、拓也は朝食食べないからさ」 「いいなあ。僕もお弁当がいい」 羨ましそうに詰められていくおかず達を見つめる智也。 「智也は給食だろ?」 「今日はお昼までだから給食はないよ」 真後ろで拓也の声。  「拓也」 光一は振り向き拓也を見た。  「うるせえんだもん起きるよ」 ダルそうに拓也はテーブルの席に座る。 「おはようお兄ちゃん」 「おう、智也、飲み物」 ニコニコ挨拶する智也に欠伸をしながら返す。  「お兄ちゃんいいなあ。お弁当」 智也はグラスにオレンジジュースを注ぎ拓也の元へと運んできた。  「智也にやるよ、学校から戻って食べたら良いだろ」 オレンジジュースを飲みながらに言うが、  「だめ!せっかくお父さんが作ってくれるんだからお兄ちゃんが食べなきゃ」 と怒る。 「はいはい」 拓也は面倒臭そうに返事をした。 あんま、父親らしい事すんな…… そう言いたかった。 離れられなくなるじゃないか……、 拓也は料理を作る光一の後ろ姿を見つめた。  「智也、ちゃんと智也の分も作るから」 振り向いた光一は凄く優しい顔で、 幼い頃、光一が大好きで智也みたいにくっついて回っていたのを思い出す。  「本当?僕にもお弁当あるの?」 智也ははしゃくように光一の側へと戻る。 素直な反応、 無邪気で可愛い智也。  自分も智也くらいの時は素直に感情を出せたとそう思う拓也だけど、でも…今くらいの距離のままが良いと思い直す。 離れるんだから、 あの人は父親じゃないんだから、あの人の才能全部受け継いでいるのは世界でたった1人。 あいつだけ。  それを知ったらかわいそうかな? 騙されてるんだから。  拓也はため息を深く吐くとテーブルに顔を伏せた。 ***** 智也が朝食を食べ出したので拓也は自分の部屋に戻り学校へと行く準備をする。 制服を着終えた時にドアがノックされた。 開けると弁当を手にした光一の姿。 「弁当………」 渡すのを迷うような光一の行動。  「ねえ、…あいつ、嘉樹にやれば?」 要らないという酷い言葉は使いたくない。 「嘉樹は具合悪くて寝てるから病人食の方が」 「あいつ具合悪いの?何で付いててやんねーの?あいつ、親居ないんだろ?今どーしてんの?」 ちょっと驚いた顔で拓也は質問攻めにする。 「豊川んちに居る。ずっと面倒見ていてくれた人が仕事で離れててさ」 「えっ?豊川さんち?何で豊川さんが面倒見てんの?他人じゃん」 確かに拓也の言う通りだ。豊川は他人。でもyoshiは一緒に居たがる。 「豊川んちは部屋広いし、嘉樹が懐いてるんだ」 そう言って光一は笑う。でも、無理して笑っているのが分かる。 寂しそうな顔をしているのに自分は気付いていないのだろう。 「俺らに構ってないで嘉樹に優しくしろよ」 拓也はぶっきらぼうに言う。 嘉樹に構えば本人から智也達を構えと言われ、 拓也達に構えば嘉樹を構えと言われる。 「………なんか、俺って必要とされてないなあ。」 光一は拓也にニコッと微笑むと部屋から去ろうとする、 「弁当、忘れてる」 拓也は光一に手を出して彼が持っている弁当を奪う。 そして「そんな弱気だからダメなんだろ!嘉樹の父親ってアンタじゃん。」そう言ってドアを閉めた。 そうだよ、本当の息子じゃんか! 拓也は泣きそうになるのを我慢する。

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