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記憶 8話
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マンション側の喫茶店でコーヒーを飲むマコトと光一。
「なあ、豊川に電話してみろよ」
30分経過して光一はチラチラと時計を気にしている。
「タケちゃん寝てるんじゃないかな?ほら、体調不良かも」
「えっ?だったら余計に連絡入れろよ、嘉樹だってまだ体調不良だろ、面倒見てる豊川が寝込むなら誰が嘉樹の面倒見るんだよ!」
光一はスマホを出す。
「ちょ、何する気?」
「豊川に電話すんだよ」
「えっ?待って、せめてメールにしたら?」
「うっせーっ、俺はちまちまメール返信とか嫌いなんだよ!」
マコトは焦る、もし…最中だったら? 邪魔しちゃう!
なんとか阻止しようとした時にある物がマコトの目に入った。
「あ、コウちゃん、その荷物何?」
光一の隣に置かれている紙袋。
「あっ…これは、その…なんだ」
光一はしどろもどろになり、何やら焦っている。
「yoshiくんに差し入れ?」
マコトの言葉はビンゴだったらしく「まあな、食わないかも知れないけどさ」と照れくさそう。
「食べ物なの?もしかしてコウちゃんの手作り?」
「わ、悪いか!」
「ううん、悪くないよ」
照れくさそうな光一にマコトはニコッと微笑む。
「コウちゃん、yoshiくん食べてくれるよ」
「そうか?」
ちらっとマコトを見る光一。
「うん。食べてくれる。コウちゃんは料理上手いでしょ?お父さんの味に感動してくれるかもよ」
「……」
マコトにそう言われ光一は黙り込んだ。
yoshiには…智也達みたいに料理を作ってあげた事がなかった。だから、父親の料理とかで思い出すわけがない。
「コウちゃん?」
黙り込む光一にマコトは心配そうに顔を覗き込む。
「いつもさ、後悔ばっか……なんで嘉樹には何もしてあげなかったんだろうって…絵本読むとか遊園地とか、朝ご飯とか、一緒に寝るとか」
目を伏せている光一は落ち込んだ顔をしている。
そうだ。今更だと分かってるのに。
「あ~、もう!へこまないって誓ったのに」
光一は頭をブンブン振って落ち込む気持ちを吹き飛ばそうと必死だった。
「今のコウちゃんは凄く良いと思うよ。お父さんの顔してる、後悔するのはそれだけyoshiくんを大事にしたいって気持ちがあるからだもん。応援しちゃう」
マコトに微笑まれて、光一は救われた気がした。
「マコトってさ、……うん、お前が幼なじみで良かった」
今、感じた感情を言葉にしたいけど、上手く言えない。ただ、側に居てくれて良かったとしか伝えられない自分。
優しい言葉や、優しい行動。
マコトみたいに自然に出せる人間になりたい。心からそう思った。
光一のスマホの着信音が鳴り出す。
表示は豊川。
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インターフォンのモニターの録画再生をすると、映ったのは光一。その後ろにマコト。
チャイムは一回しか鳴らなかったから、きっとマコトが気を利かせたんだと思った。
光一だけだったらチャイムを連打されたに違いない。
「マコちゃん?」
モニターを確認する豊川に声を掛けるyoshi。
「そんなとこだ。気を利かせてくれたみたいだな」
「マコちゃんってば、可愛い」
yoshiはマコトに話して良かったと感じた。
「嘉樹、先にお風呂に入ってなさい」
「えーっ、一緒に入ろうよう」
yoshiは甘えるように豊川に抱きつく。
「後から行くから待ってなさい」
頭を撫でられyoshiはニコッと笑うと、
「はーい」
返事をして素直に風呂場へと向かった。
豊川は行為後を片付けながら光一に電話を入れる。
文句言われそうだなっ、なんて覚悟をした。
「豊川、お前大丈夫か?」
もしもし、もなく光一の心配な声になんだか拍子抜け。
「何が?」
最近暑かったからなあ。なんて思った。
「マコトがもしかして体調不良じゃないかって言うからさ、お前が体調不良なら嘉樹どうすんだよって心配した」
「……ああ、すまん、つい二度寝した」
「二度寝?まじ?」
ホッとした様子が伝わる。
「嘉樹は?」
「嘉樹はさっき起きてきてシャワー浴びてる」
「シャワー?熱下がったばかりだぞ!」
父親らしい心配の言葉。
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