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記憶 9話

「なんなら私が嘉樹の身体拭いてやっても良いけど?」 「だめーっ!それは絶対にだめーっ!」 耳をつんざくような声に豊川は笑いそうになる。 「じゃあシャワー浴びても良いよな?」 「うっ、仕方ない」 渋々と承諾する。 何だか、普通の父親みたいになっていて微笑ましい。 ****** 「何で光一までいんの?」 不満そうに光一を見るyoshi。 風呂を早めに出たのはマコトが来るからだと思っていたのに、当然みたいな顔で光一も横に居る。 「お、俺の勝手だ」 ぷいと横を向く光一。 「仕事は?」 「13時からだよ、ちゃんと行くし!」 「本当に?アキにはここに来るって言ってるんだろな?」 「何でアキの名前が出るんだよ」 「アキは光一のマネージャーだろ?あんま、迷惑かけんなよ」 「俺がいつ!」 光一がyoshiに反論しようとした瞬間に耐えきれなくなったマコトが笑い出す。 「あはは、コウちゃん負けてる」 「だな」 豊川も笑いながらに言う。 光一は笑われたショックからか拗ねたようにyoshiから視線を外した。 「さて、出掛けるか」 豊川はちらっと時計を見る。 「えっ?豊川、仕事休みじゃ?」 光一は不思議そうな顔で豊川を見た。 「荷物取りに行くんだよ」 「何の?」 「嘉樹の荷物」 「荷物?ここに住むのは2週間くらいじゃないのか?そんなに居るのか?」 「ここに住むんだよ。」 答えたのは豊川ではなくyoshi。 「はあ?何で?」 「何で?何で光一に説明しなきゃいけないんだよ」 フンッとそっぽを向くyoshi。 「豊川説明しろ!」 睨む光一。  「ナオが拓海と暮らすらしい。そしたら嘉樹が1人になる。嘉樹は持病持ってるだろ?ナオがそれを心配しててね、発作を起こした時に誰か居ないと……って」 これは本当の事で嘘ではない。 「………ナオと、でも、何で豊川なんだよ!」 むうっと拗ねた顔の光一。 そんな話は知らない。  知らない所で話が決まっていた。 自分の息子なのに! 「豊川さん以外、誰が居るんだよ?豊川さんちなら事務所に近いし、部屋広いしさ、俺も豊川さんと住みたいし」 yoshiに当然みたいに言われ、それもショックだ。 いつも頼るのは豊川。笑顔見せるのも、食事作るのも、懐くのも豊川。 「そりゃ部屋は広いし、事務所も近いけどさ」 それだけの理由じゃ納得は出来ないし、したくない。 「つーか、何で光一がそんなにムキになるんだよ、別にいいだろ?関係ないし」 チクン… 小さなトゲが胸に刺さる。 関係ない。 yoshiの口から言われる度にチクチクと胸を刺される。 「うるせえー、心配しちゃいけねえーのかよ!俺だってマコトや、豊川みたいにお前が心配なんだよ」 と、つい、 言ってしまって後悔。  声を押さえたつもりなのに、少しキツく怒鳴ったみたいに言ってしまい、yoshiが一瞬、怯えた顔をした。  あの時みたいに…… 遊園地に行けないと怒鳴った時みたいな顔。 マズい…そう思ってフォロー入れようとしたが「じゃあ、勝手に心配してろ。でも、豊川さんちには住むから」とyoshiに言葉を返されホッとした。  もしかして、また泣かすんじゃないかと不安になって、 また、ワガママを自分にだけ言わなくなるんじゃないかと心配になった。  「………分かった」 安心して、素直にそう答えた。 素直に返事を返す光一になんだか拍子抜けって顔のyoshiは、  「分かればいいし」 とそれ以上、光一に冷たい態度取る事はしなかった。 ******  光一が荷物を取りに着いて来ると言い出してもyoshiは「邪魔だけはすんなよ」と素直に同行を許した。 荷物が少しでも多く乗るようにと車二台で行く事にしてyoshiは豊川の車。  光一はマコトと乗った。 ちょっと不満だったが喧嘩しかしなさそうで光一は反対はしなかった。  「コウちゃん、またへこんでる?」 マコトの突っ込みに無言の光一。  「関係ないって言われたから?」 「違う、嘉樹に怒鳴ったから」 そう言って光一はため息を吐く。

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