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記憶 10話

「光一が気になる?」 「えっ?」 豊川の言葉にyoshiは彼を見た。 「後ろばかり気にしてる」 豊川の言葉通り、yoshiはチラチラと後ろから着いてくる光一の車を気にしていた。 「別に」 yoshiは座り直す。 「そうか?」 yoshiの心の中を見抜いているような豊川の声。 「あいつ…なんか泣きそうな顔すんだもん、調子狂う」 「嫌な態度だったかも?って?」 yoshiは頷く。 「そっか、嘉樹は可愛いな」 豊川の大きな手が頭を撫でる。 豊川の手は好きだ。凄く安心するから。 yoshiの頭を撫でながら、先に光一に承諾を得れば良かったかな?と豊川は思ってしまった。 関係ないと言われた光一は確かに泣きそうな顔をした…。 あんな顔、久しぶりに見た。yoshiと離れた時の光一はさっきみたいに泣きそうな顔をしていた。 血の繋がった息子をアッサリ見捨てた光一をあの当時は許せなかった。  自分を施設に捨てた親と重ねてしまったから。 辛いなら手放さなければ良いのに…と。 でも、後悔をし続ける光一を見ていると、自分を捨てた親も、後悔しているかも知れないと思うようになった。 親にならないと分からない感情。 ****** 「yoshi、おかえり」 チャイムを鳴らすと中からナオが顔を出した。 「ただいま、ナオ」 yoshiはぎゅっとナオに抱き付く。久しぶりの彼の匂いと感触。ほんの少ししか離れていなかったのに懐かしく感じてしまった。 「おはようございます!豊川さん…と、マコトさんに光一さんまで」 来るのは豊川だけだと思っていたナオはちょっと驚いた様子。 「おはようございます。yoshiくんの引っ越しの手伝いに来ました」 マコトは軽く会釈し、光一も頭を下げる。 「すみません、yoshiの為に」 ナオは豊川達3人に深々と頭を下げる。 「中、入ろう」 yoshiは豊川達に手招きをし、家の中へ。 「同棲するって光一さん達に言ったの?」 ナオは小声でyoshiの耳元で囁く。 「俺達が付き合ってるのを知ってるのはマコちゃんだけだよ、光一には言ってない。あいつはルームシェアするとしか思ってないよ」 先に進む光一の背中にyoshiは視線を向ける。 「そっか」 「それよりナオは拓海のマンションに引っ越すの?」 「その事なんだけど、この家でしばらく一緒に暮らそうかと」 「えっ?都心から離れてるじゃん、拓海不便じゃないの?」 「新しいマンション見つかるまで何だけどさ、拓海がこの家を気に入っててさ」 「そっか、じゃあ拓海が俺の部屋使うの?」 「それはまだ」 「拓海いつ引っ越してくんの?」 「もう来てる」 真後ろで拓海の声。振り返るとニコニコと笑いyoshiに手を振る。 「はやっ」 「善は急げってことわざが日本にはあるし」 「ふ~ん、どんな意味?」 「良いと思った事はすぐに行動に移す………だよね?」 拓海はちらっとナオを見る。 「拓海」 拓海の声に気付いた豊川が声を掛けてきた。 「おはようございます!社長」 拓海は深々頭を下げる。 「なんか仰々しいね。いつもの調子で良いよ」 豊川は拓海に微笑む。 拓海は小さく、はい。と返事を返す。 「ね、朝ご飯食べた?」 yoshiに視線を戻す拓海。 「えっ?なんで?」 「朝ご飯の用意したんだよ、ナオと一緒に。食べてから荷物整理しなよ」 「えっ?でも」 早く荷物を詰め込みたいyoshiは躊躇する。 「好意に甘えよう」 豊川はyoshiの背中をポンと軽く叩く。 「…うん」 豊川がそう言うならとリビングへ。  「おそいーっ……て、拓海」 先にリビングに居た光一とマコトは拓海の姿に少々、驚いたようだ。 「おはようございます!」 拓海は丁寧に頭を下げる。 「お、おはよう」 なんか普段の拓海との雰囲気が違う気がして光一もマコトも何だか物足りない。 生意気さが足りないのだ。 yoshiもそうとう生意気だけど拓海は上を行くと思っていたのに。 「光一さん達も一緒に朝ご飯どうですか?」 ニコッと爽やかに笑う拓海。 ドラマのワンシーンみたいだった。

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