222 / 275
記憶 12話
ナオに促されて彼の部屋に連れて来られた光一。
「光一さん、元気ない理由はyoshiが豊川さんと住む事を知らなかったからですか?」
「えっ?」
ドキッとした。
「僕が豊川さんに頼んだんです。yoshiを1人に出来ない過保護ですから僕は」
ナオは本棚を触りながらに言う。
「豊川に聞いた」
「光一さんには家庭があるし、智也くん達はyoshiの存在知らないでしょ?それに奥さんだって前妻の子供は……」
ナオの言いたい事は分かる。
「でも、豊川さんの所へ住まわせる事を言わない理由にはなりませんからね。あなたはyoshiの父親だから」
ナオは振り返り光一に笑いかける。
「名ばかりの父親ですけどね」
「自信持って下さいね」
「えっ?」
「yoshiの父親はあなたです。彼はあなたに良く似てます。性格とか、仕草とか……あなたを見る度に良く似てるなと実感してます。兄があなたに会ったらヤキモチ妬くかも。凄く可愛がってたから」
「そんな……俺に似てる?」
戸惑ったような光一は少し照れたようにも見える。
「似てます。ヤキモチ妬くくらいに」
「ヤキモチ……俺の方がずっと羨ましい。嘉樹は良く君のお兄さんを恋しがるし、どれだけ好きかは……記憶をすり替える程なんだから、ヤキモチ妬くのは俺の方」
光一は下を向く。ナオを見れない。
写真でみた義父に似ているから。
笑顔で義父と写るyoshiを思い出してしまうから。
「俺は思い出して貰える資格なんてない。忘れて当然だ。幼い嘉樹を愛してやれなかった……絵本を読んでやるとか、遊園地とか、一緒にお風呂に入るとか……朝食を作るとか、そんな簡単な事さえ与えていない。ダメな父親だから……嫌われても当然なんだよ」
光一の声は震えている。唇を噛み締めて拳を握る。
「今更だけど、後悔ばっかで……本当、情けない」
自分がどんなに馬鹿だったか後悔ばかりする。
泣いてもどうにもならない。
無くした過去を思い返してもどうにもならないのに。
「光一さん、僕、あなたに謝らなきゃ」
優しい声。光一は視線を上げた。
「初めて会った時、あなたが良い父親には思えなかった。幼いyoshiがどうしてこんな父親を待っていたのかと疑問に思ってました」
「えっ?」
「虐待の原因作ったのは光一さんでした。アメリカに来てもyoshiはあなたの事ばかり言い続けて、イライラして義姉は虐待してしまった。お前のせいだって言われながら殴られ続けて、yoshiは大人を怖がる子供だった。でも、それなのに病院で東洋系の若い男性。光一さんと背格好が似てる男性を見かけると着いて行ってた……居るはずもないあなたをずっと探していました」
光一はショックで言葉を出せずにいた。
「兄がyoshiを愛しても心にはいつも光一さんが居たんです」
ナオはそう言うと光一にファイルを数冊渡した。
「光一さん、あなたが後悔している姿みたら、yoshiがあなたが好きだった理由が何となく分かる気がしてきました。謝ります。そのファイルは光一さんに差し上げます。どんなにyoshiがあなたを好きだったか分かりますよ」
渡されたファイルを開けて手が止まった。
「俺……」
光一の目に入ってきたのは雑誌の切り抜き。
光一がバンドしていた頃の記事や写真だった。ページを捲ると、たくさんの切り抜き。
数冊とも切り抜きでいっぱいだった。
たくさんの記事を雑誌から切り抜き、綺麗にファイルしてある。
「それ、作ったのはあの子です」
ナオの言葉に耳を疑う。
ページを捲る度に古い記事から小さな記事まで取ってある。
「アメリカで日本の雑誌手に入れるのは大変なんですよ。海外の雑誌は高いし……だから、あの子が記事を集めるのがどんなに大変だったか分かるでしょ?」
光一はその場に座り込むと必死にページを捲る。
「お小遣いは殆ど、それに消えてましたからね。だから僕も日本のアーティストを好きな振りして雑誌を買ってました。あなたの記事が載ってるのを選んで」
……確かに、どんなに大変だったか想像はつく。
子供の小遣いじゃたかが知れている。
それをこんなにたくさん… きっと他の欲しい物を我慢して、本屋で自分の載った雑誌を探す幼いyoshiを想像したら、喉の奧が熱くなって、開いたページに涙の雫が落ちた。
ともだちにシェアしよう!