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記憶 13話

捲る度に記事が霞んで、胸が熱くなる。 いろんな記事。 音楽雑誌だけじゃない。きっと、映画雑誌とかも…こんなに、こんなにたくさん……愛してあげた記憶なんてないのに。 いつも我慢ばかりさせて、遊園地の約束も、絵本さえも読んでやらなかったのに。 「な……んで、俺……良い父親なんかじゃ」 こんなにされる程、良い父親じゃなかった。 「理由なんて1つでしょ?」 ナオがいつの間にか側に一緒に座り込んでて、 「あなたがお父さんだからです。たった1人、血の繋がった父親だから。子供はそれだけで無条件で愛してくれるんですよ」 その言葉に涙はもう止まらなくて「ごめ……ごめんな嘉樹……ごめん」謝る言葉しか出て来ない。 こんなに愛してくれていたのに。気付かなくてごめん。 お父さんと呼ぶ幼い彼の声が聞こえてくる。 「おれ、ほんと…ばかっ」 ごめんな、嘉樹。 悪い父親でごめん。 手を離してごめん… 記憶を無くされたとか落ち込む権利はない。 「光一さん、自信持って下さい。yoshiはあなたをこんなに好きなんだから」 光一は何度も頷く。 2冊目のファイルにライブチケットを見つけた。 6年前に3日間だけ復活ライブをした時のチケット。 「これ…」 ファイルからチケットを取り出す。 「僕と一緒に見に行ったライブです」 「東京に来てたのか?」 涙でくしゃくしゃの顔を上げた。 「はい。会いに来てました」 「チケット……わざわざ買ったのか?」 「インターネットで24時間頑張ってアクセスしてました」 「お金は?高いのに」 「チケット代は僕も半分出しました。後は子供でも出来る仕事をしたりお小遣い貯めたり…交通費はコッソリ兄が出してくれました。yoshiはファイル作ってるのもライブの事も兄達には内緒にしてましたからね」 なんで?と聞こうとして理由を思いつく。 また、虐待されると思ったから。 「会場で目をキラキラさせてあなたを見てましたよ」 ナオの言葉にまた胸が熱くなって、視界が霞む。 あの時間、あの会場にyoshiも居た。 自分は見つけてやる事さえ出来ずにライブを行っていた。 「本当に嬉しそうでしたよ。」 「そっか……見てくれてたんだ」 光一は流れてくる涙を拭う事もせず、霞んだ視界に映るチケットをぎゅっと抱き締める。 「凄い、凄いって……お父さんは凄いってずっと言いながらライブを見てました」 凄い……なんて勿体無い。 凄くなんてない。見に来てくれた息子の存在にさえ気付かなかったのに。 「なお………ありがとう。このファイル大事にする」 「どういたしまして」 ナオは光一の肩をポンポンと叩く。 泣いている光一を部屋に残し、ナオはそっと部屋を出た。 1人きりで光一はファイルのページをゆっくりと捲っていった。  涙は拭いても拭いても流れてくる。 1ページごとにyoshiがどれだけ自分を愛してくれていたのか伝わってきて、心がそれでいっぱいなる。 愛しい気持ち。 後悔してもどうしようもないけど、ライブ会場であの子を見つけてあげたかったと思う。 ありがとう。 こんな俺をこんなに愛してくれて。 こんなに………本当にありがとう。 そして、ごめんな。 最後のページまで自分を大好きだと伝わって、光一はファイルをぎゅっと抱き締めた。

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