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記憶 16話
「次はホラー借りてやる」
精一杯元気に答えて泣いているのが伝わらないようにする。
「ホラー?あ、ゾンビ系がいい」
「スプラッタか~」
「何?苦手なん?意外とヘタレだな光一は」
クスクス笑うyoshi。
「笑うなよーっ、いいだろヘタレでも」
「あはは、可愛い所もあるんだなって思っただけ。じゃあ、仕事頑張れよ」
「……ありがとう」
普通に会話を出来る幸せ。
たとえ記憶の中に自分が居なくても、こうやって声が聞ける。
心配をしてくれる。
頑張れと言ってくれる。
凄く幸せな事なんだと改めて思った。
ごめんな。
それだけじゃ全然足りない。
ありがとう。
その言葉に全ての気持ちが収まりきれない。
「うん、じゃあ、頑張ってくる」
と言って電話を切った。涙がぼろぼろ零れて止まらない。
車の備え付けのティッシュを随分と使ってしまって、一生分泣いたようだ。
本当、俺、泣き虫だな。
こんな姿見せたら呆れられるかな?
でも、今は自分の素直な感情のままに泣きたい。
****
「ありがとう」
yoshiは豊川に携帯を返す。
「光一は?」
「なんかさ……無理して元気にしてたっぽい。あ~めっちゃ傷つけたかな?」
yoshiは声の変化に気付いていた。
無理して元気に振る舞っている事くらい分かってた。
でも、本人が元気に振る舞っているのだから、敢えてしつこく聞く必要はないと気を利かせた。
「大丈夫、アイツは一晩寝たら忘れるタイプ。幼なじみの私が言うんだから本当だ」
豊川はyoshiの頭をポンと叩く。
「そうなんだ?幼なじみかあ~いいなあ。俺、そんな奴居ないし、タケルが幼なじみっていいよね。頼れそう」
「光一は宿題とか授業のノートとか頼りまくってたな」
「あー、想像つくーっ!」
yoshiはあははと笑う。
少し元気がなかったけれど話している内に元気を取り戻しているようで豊川は安心した。
「居残りとかサボって学校抜け出して先生に叱られてたしな」
「まじ?タケル達の学生時代聞きたい」
食いついてくるyoshiに笑顔で豊川は話続けた。
*******
「じゃあ、yoshi、いつでも遊びにおいで」
荷物を詰め込み、豊川のマンションに戻る為に見送りにナオと拓海が玄関まで見送りに来てくれた。
「うん」
yoshiは頷くと家をぐるりと見た。
日本に来て、まだ1年も経ってないから住んでいた期間は短い。でも、なんでだろう?凄く懐かしい。
そして、寂しい。
「yoshi?どうした?」
ナオに名前を呼ばれ彼を見た。
ナオ……、なんで今更?
なんで、凄く寂しくなるんだろう?ナオはこの家に居るし、いつだって会える。
メールも電話もあるし、絶縁するわけじゃない。
なのに、どうして寂しくなるんだろう?
「yoshi?」
もう一度呼ばれて、何でもないと首を振る。
「なんか寂しいなあ。嫁に出す気分だよ」
ナオは微笑み、そう言った。
「なお…」
うん、寂しい。
凄く寂しい。
視界が歪んで、気付いたら直に抱きしめられていた。
「本当、泣き虫は治らないね。」
頭を撫でる優しい手。
「なおっ」
「ほら、泣かない泣かない、何時でも会えるし、yoshiには豊川さんが居るでしょ?」
そう、分かっている、何時でも会える。
豊川が守ってくれる。
でも……ナオは特別。
「なおは……1人だもん。なおは…大事な」
「うん。家族だよ。大事な家族。嘉樹は可愛い弟だよ。寂しかったら電話しなさい」
「うん」
yoshiはぎゅっとナオに抱き付く。
大事な家族。
失いたくない大事な家族。
「ほら、もう行って」
ナオに背中を押される。
涙を拭いて豊川の元に、
「嘉樹」
名前を呼ばれて振り向くと拓海が居て、
「ごめんな嘉樹、ナオを取って。」
真剣な顔。
「拓海…」
「でも、俺はナオが好きだから、ごめん」
あまりにも真剣でyoshiは首を振ると「ナオをよろしく」と笑った。
「うん。もちろん……ありがとう」
拓海も笑った。
「今度からよろしく」
と付け加えられた。
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