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記憶 18話

「yoshiくん、大丈夫?」 寝室から豊川と一緒に出るとダンボールを畳んでいるマコトが居た。 「うん。俺こそごめんねマコちゃん、荷物ありがとう」 「いいんだよ。」 「マコト、嘉樹はお腹空いているらしい」 豊川は2人の会話の中に入る。 「お腹空いてるの?いいのがあるよ」 マコトは嘉樹にニコッと微笑んで何かを取りに行った。 「yoshiくーん」 名前を呼ばれてキッチンへ行く。 「はい、これ」 紙袋からタッパーを出してyoshiに渡すマコト。  「なに?」 「お弁当」 「お弁当?マコちゃんが作ったの?」 「コウちゃんだよ」 「えっ?光一」 yoshiは驚いてタッパーを見つめる。 「yoshiくんの為に早起きして作ったみたいだよ」 「へえ…、食えんの?」 ちょっと嫌みが入ってたけど、素直にテーブルに持って行くyoshiにマコトは嬉しそうに笑う。 「不味くはない」 そう言ってyoshiは完食した。 「光一、いつの間に」 「渡しにくそうな感じだったから、コッソリ持ち出してたんだよ」 「光一、元気無かったって嘉樹が心配していた」 「あ、それは逆だよ」 マコトはチラリとyoshiの様子を確認した。 お弁当を食べた彼は荷物を片付けに入っているようで、こちらの話は聞こえていないようだ。 マコトはファイルの話を豊川にした。 「そうか…じゃあ、嘉樹が言っていた泣いてるっていうのは当たってたんだな」 yoshiは忘れていても記憶のどこかに父親の存在がある。ここに住めば光一との距離が縮まるかも知れない。 「タケちゃん、yoshiくんと付き合っている事を言うの?」 そう……、 いつかは言わなければとは思う。 「そうだな。」 「yoshiくんがコウちゃんを思い出すまでは黙ってたら?」 「えっ?」 「今は親子の絆が先な気がしてさ…あのファイルみたら、早く思い出して欲しいなあって」 「そうだな」 思い出して欲しい。 心からそう思う。 ****** 仕事が終わったのは10時過ぎ。思ったよりは早めだった。yoshiに会いに行くには気が引ける時間。 仕方なくハンドルを自宅の方へ切る。 助手席にはファイル。 小さな幸せを手に入れたようで嬉しい。 もし、思い出して貰えなくても、yoshiが自分を愛してくれていた事実は変わらない。 少し強くなれたような気分になれた。 ファイルを抱え家へ戻る。 「最近真面目だね」 部屋から出てきた拓也に出くわした。 「まだ寝てなかったのか?」 「智也じゃないんだからさ、そんな早く寝ないよ」 時間は11時前。 自分も拓也くらいの時は深夜まで遊んだり、ラジオ聞いたりしていた。 まあ、拓也はラジオじゃなくネットかゲームだろうけど。なんて考える。 「真面目って、拓也も真面目だよな。俺なんて中学の時は家に居なかった」 「昔の不良ってやつ?」 「だな」 「前は不良だったじゃん。最近は何か真面目だけど」 そう言われたら返す言葉がない。  ただ、笑って誤魔化すだけ。 「まあ、いいけどね。」 拓也は光一の先を歩き、台所で冷蔵庫を開ける。 光一はファイルを抱えたまま、テーブル周りをキョロキョロとしながら何かを捜す。 「なにやってんの?」 冷蔵庫から出した炭酸飲料を手に拓也は首を傾げる。 「やっぱないなあ」 「だから何が?」 「今朝作った弁当。車の中にも無くってさ」 辺りを見るが容器は見当たらない。 「弁当?朝持って出ただろ?」 やっぱり持ち出してはいる。 「あれ?じゃあ豊川んとこかな?」 「豊川さんとこ寄ったんだ」 「寄った。明日、豊川に聞いてみるよ」 そう答える光一に、目的はyoshiなのかと聞きたかったが止めた。 ファザコンじゃないし、第一……父親が息子に会いに行くのは普通。言葉にするのが怖かった。  おやすみ、と言ってその場から離れようとする光一を呼び止める拓也。  「弁当うまかった」 振り返った光一にそう言うと目尻を下げて照れくさそうに笑う姿を見て、胸が痛くなった。  ごめんね、お父さん。  きっと俺や智也が本当の幸せを奪っている。 そう思った。

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