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記憶 19話
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「光一さん!ちょっと来て下さい!」
朝、事務所地下の駐車場に着くなりアキに拉致された光一。
「朝からうるせえなあアキは」
アキを睨むが彼は鼻息も荒く光一の腕を引っ張り早足で歩いて行く。
事務所に入って光一は目を丸くした。
「えっ?拓海」
事務所に拓海が居た。
「おはようございます」
ニコリと爽やかに光一に微笑みかける拓海。
「おはよう」
爽やかな笑顔につられて返事を返す。
事務所には拓海と数名のスタッフ。
まだyoshiの姿はない。来てないのかな?
あ、まさか、具合悪いまま?
立ち寄っていたら、少しはyoshiの変化が分かったかな? 何て考える。
「光一さん、今日からよろしくお願いします」
「へ?」
拓海の言葉に我に返る。
「光一さん?大丈夫ですか?」
アキと拓海に心配される。
どうやら拓海がずっと話し掛けていたようで、
「ごめん、ちょっと疲れてて、で?何がよろしくなんだ?」
笑って誤魔化す。
「移籍したんですよ、ここに」
「へえ~……………えっ?まじ?」
思わず大声を出す。
「はい。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる拓海。
「前の事務所は?」
「まあ、色々ありまして。」
「って、訳だよろしく」
と拓海の移籍の詳しい理由を知っている豊川が会話を切るように入ってきた。
豊川が居るので、yoshiも居るのではと光一はキョロキョロする。
「お前、本当、落ち着きないよな」
キョロキョロする光一に呆れたようなため息の豊川。
「うるせえよ」
ぷいと横を向く光一。
yoshiは来てないのか?そういえばマコトも居ない。じゃあ、やっぱりまだ具合悪いのか?
昨日は元気そうだったのに。
一度yoshiの事を考えると、物凄く会いたくなる。また見舞いに行ってみよう。
また来いよと言われたし。
なんて考えていると社長室のドアが開きyoshiがマコトと出てきた。
なんだあ、居るじゃん。
少しホッとする。
楽しそうにマコトと何か話をしているyoshi。
小さい時から仲が良いと知っているけど、話に夢中で自分に気付かない彼に寂しさを感じてしまう。
あんなに楽しそうにして、 ふと思うのは自分にはあまり見せてくれない顔を見れるマコトを羨ましいって事。
「光一聞いてんのか?」
「えっ?」
豊川に名前を呼ばれ我に返る。
「拓海のマネージャーをアキにさせようかと」
「えっ?じゃあ俺は?」
「お前マネージャー要らないとか言ってたよな?」
言ってたような気がするな~と思い出す。
そして、yoshiがこちらを見ている事に気付く。ただ、それだけなのに少し心拍数が上がる。
何か話さないとダメかな?
ほら、体調良いのか?とかさ、 会話ならいっぱいあるだろ?何か言えよ俺!
yoshiが近付いてくる気配がする。
何か恥ずかしいというか、良く分からない感情でyoshiを直視せずに視線の端だけで見ている光一。
「豊川さん、携帯鳴ってるよ」
と、近付いて来たのは豊川に用事だったのかとガッカリ。
確かに社長室から携帯の着信音が聞こえる。
「ちょっと待ってろ」
豊川は光一にそういうと社長室に入って行った。
しかも、yoshiも一緒に行ってしまうし。
ああ、もう!
話すタイミングを逃しガッカリくる光一。
「光一さん、何かずっとyoshi君を意識してましたけど、話し掛けたら良いのに」
アキが小声で話しかけてきた。
げ、アキに気付かれていた!
ピクンと反応した光一に、
「事務所入った瞬間からyoshi君探してるみたいだったから直ぐに分かりましたよ。何か可愛いなって光一さん」
ニコニコするアキ。
「何か学校の行事とかで親来てるか捜してる子供みたいでしたよ」
「うっせえアキ」
光一はアキの額を指で弾く。 手でさすりながら痛がるアキを見ながら、考えたのは、 親を捜す子供みたい。
その言葉で、幼いyoshiが必死に自分を目で追っていた姿を思い出した。
きっとyoshiもこんな気持ちだったのかも。
今更ながら気付いていくyoshiの思いに胸が痛い。
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