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記憶 21話

20代の豊川が演奏する姿が流れ出す。 自分とあまり変わらない豊川の若い姿に何故か照れてしまうyoshi。 かっこいい! 色っぽい! ライブ映像みたいで女の子の悲鳴に近い声も聞こえる。スゴイなタケル。  かなりモテてたっぽい。 次々に動画をクリックしていく。 マコトの若い時や、 あれ?この人誰だっけ? と画面を食い入るように見てしまうメンバーとか、 Pleiadesの名前をクリックすると、光一の若い時の歌う姿が画面に映る。 張りのある綺麗な声。  光一……歌、上手いんだな……と聞き入ってしまう。 それと同時に懐かしくなって、 気付いたら泣いていた。どうして泣くのか自分では分からない。 ただ、涙が止まらない。 この頃の彼らを懐かしく感じて、若い豊川の温かい体温も知っていると記憶が訴えてくる。 知らないのに。 知らないはずなのに。 なんで?  やだ、  怖い。 yoshiはパソコンの画面を消して、涙をごしごしと拭く。 でも、止まらない涙にどうして良いか分からない。 ドアが開いて豊川が入ってきた。  yoshiはたまらず、豊川に抱きついた。 「嘉樹、どうした?」 泣きながら抱き付いてくるyoshiに戸惑う豊川。 yoshiは答える事もせずに必死にしがみつき泣くだけ。 「嘉樹、どうした?」 豊川はyoshiをぎゅっと抱きしめ安心するように声をかけ続ける。 ソファーに座らせ頭を撫でていると、次第に落ち着いてきたみたいで、顔を上げた。 「どうした?」 「わかんない……動画みてたら」 「動画?何の?」 「Pleiades」 Pleiades(プレアデス) 自分達のバンド名。 「感動した?」 泣いた理由が何となく想像がついた豊川は和ませようとわざと冗談っぽく言う。  「タケルが格好良かった」 「そうか」 微笑みかける。 「モテてそうだった」 「モテてなかったぞ?」 「嘘だ!」 ようやく笑ってくれて豊川はホッとする。 豊川はyoshiの涙のあとを指先で拭う。 「大丈夫だよ。何も怖くない。私が居るだろ?」 豊川はyoshiの心理を読みとるような言葉をかけた。 「うん」 顔に触れる豊川の手を頬を擦り寄せる。 「どの動画見たんだ?」 また泣いてしまうかも知れないけれど、何かキッカケが出来るかも知れないと思った。 yoshiは立ち上がり、パソコンの前へ行き、また動画サイトを開き、久しぶりに若い時の画像を見るはめになった豊川は何か照れくさく感じた。 「きっとタケルが格好良すぎで泣けたんだよ」 泣いた理由が自分で分からないyoshiは笑って、そう答える。 「ありがとう」 頭を撫でてyoshiにお礼を言う豊川。  どの画像も懐かしい。ライブ動画は特に懐かし過ぎる。 6年前の最後のライブ動画にピクリと反応をしたyoshi。 「タケルはまたステージ立ちたい?」 yoshiは無意識なのだろう動画を見ないようにやたらと豊川に話し掛けてきた。 きっと泣いたのはこの動画。 「嘉樹、おいで」 必死に話し掛けるyoshiの目が凄く不安そうなのを感じ取った豊川は彼を抱き寄せた。  安心したようにぎゅっと抱き付くyoshi。 動画は短いものだったので直ぐに終わった。 「部屋にはまだ私の映像あるぞ?見るか?」 「うん、ピアノ弾いてる映像もある?」 「多分」 「それがみたい!」 「分かった」 そう言って頭を撫でるとyoshiは子猫みたいに気持ち良さそうに目を閉じる。 光一が一緒の時に見た方が良いかな?  豊川は真剣に考える。  ****** あ~、くそ、マネージャー要らないとか言わなきゃ良かった。なんて光一は後悔しながら事務所に戻ってきた。 新人みたいなミスをした。  時間の間違い。  遅刻とかではなく、時間を早く間違えたのだ。  スケジュール帳つけるのはアキがやってたからなあ。  意外とアキは使える子だったな、なんて後悔。  それに俺の話を真面目に聞いてくれてたしなあ。

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