233 / 275

君の歌 2話

****** あ~、もう!またやってしまった。 yoshiは洗面台で顔を洗う。 やっぱ、腫れてるの分かるよな。 鏡で自分の顔を見ながら落ち込む。 光一は悪くないのに、気にしている事を言われ、つい……無言で部屋を出た。 すげえイヤな奴っぽい! それに、いきなり話し掛けてきたからとっさに言葉が出て来なかった。 無視した事になるよね? あ~、また、傷つけたかな? 「嘉樹」 豊川の声に振り向く。 「大丈夫か?」 心配そうな顔。 豊川のその顔がyoshiは好きだった。 自分の事を考えている証だから。 豊川はポケットからハンカチを出すとyoshiの顔を拭く。 「ふふ、何か小さい子供みたい」 拭いてもらいながら、yoshiは笑う。 「本当、手のかかる可愛い子だよ」 クスクス笑う豊川。 「光一、何か言ってた?」 「嘉樹の心配してたよ」 「何で?」 傷つけたかと思っていたのに、心配されていたとはyoshiはちょっと驚く。 「嘉樹が元気ないからかな?」 豊川は拭き終わるとyoshiの頭を撫でた。 「光一の事気にしてるのなら、戻って元気だよ、って言ってやれば良いよ」 「でも」 yoshiは腫れた目を指摘されるのがイヤだった。泣いた事を知られたくないって何故か思う。 豊川は台に置かれた伊達眼鏡をyoshiにかけると「嘉樹は眼鏡も似合うなあ。ちょっと前に眼鏡男子もてはやされてたろ?その理由、嘉樹見たら納得」そう言って微笑む。 「どういう事?」 「エロいって事。オフィスでスーツ着せて眼鏡かけさせて、オフィスプレイしてみたいかも。秘書と社長」 その言葉にyoshiは笑いだし「タケルが萌えてくれんなら、やってあげる」と抱きついた。 「えへへ、エロい事言うタケルも好き」 「そうか?」 豊川も抱きしめる。 「そうやって俺を笑わそうってしてくれるタケルも好き」 yoshiは顔を上げて微笑んだ。 ◆◆◆◆ どんな言葉をかけて、どんな行動を取れば良いか、正直分からない。  年を重ねた分、経験豊富なはずなのに、 きっと、無意識に避けてきた証拠。 光一はため息をつく。 「ほら、コウちゃんがそんな顔してたらyoshi君は余計に不安になっちゃうでしょ?」 マコトの言う通りだ。 心配させてしまう。 yoshiが豊川と戻って来た。 「嘉樹、昼飯どうする?」 光一は色んな言葉の中で、つい、脳天気な言葉を選んでしまい。後悔。  まるで心配していなかったみたいだな?  ああ、もう!俺のバカ! なんて心の中で自分を罵倒。 yoshiをチラリと見て、反応を気にする。彼は光一をチラリと見たが無言。 どうしよう……次の言葉を!  ほら、もっと気の利く言葉を! 目を泳がせて、焦る光一の目の前に紙袋が突き出された。  はい?  きょとんとなる光一に紙袋を突き出したのはyoshi。 「弁当、ありがとう」 えっ?弁当?  反射的に紙袋を受け取る。 「中身、入ってるから食えば?」 yoshiはそれだけ言うと自分のデスクへ戻った。 中身…確かに重い。  中を覗くと昨日、どこに置いたか分からなくなっていた容器。 マコト? チラリとマコトを見るとニコッと微笑まれた。 マコト…… 気を利かせて、yoshiに弁当を渡したのだと嬉しくなる。  ありがとう。心からそう思った。 もちろんyoshiにも礼を言わなくてはと「嘉樹、ありがとう」と彼に視線を向けた。 「どういたしまして。……残すなよ」 yoshiはパソコンから目を離さずにそう言ったが、何だか照れくさそうに見えた。 「おう」 光一は笑顔で、返事をすると、食べる為にテーブルがある事務所へ戻る。 やばい!ニヤニヤが止まらない。 そっかあ、 食べてくれたのか。  物凄く嬉しい! 凄く凄く嬉しい! yoshiが作ってくれた弁当は、 やはり玉子焼きの量が多くて、 この前、作って貰った時よりも凄く嬉しくて泣けてくる。 

ともだちにシェアしよう!