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君の歌 3話

***** 「良く出来ました」 豊川に褒められたyoshiは照れくさそうに笑うと自分のデスクで弁当を食べ始める。 光一が嬉しそうな顔を見れて良かったとyoshiは思った。 元気が無かった光一が気になっていて、 もし、自分が傷つけてしまっていたら、 そんな事を考えていたら気になって仕方なかった。 でも、良かった。笑ってくれて。 だだ、それだけなのに凄く嬉しかった。 ****** 「ナオを呼ぼうか?ああ、それよりもキャンセル」 「タケル、いいから心配しないでよ」 夕方、仕事にyoshiを連れて行けない為に豊川はマンションに彼を連れて来たが、心配で出掛けられないでいた。 置いて行けない理由は、昼間に泣いてしまったから。  情緒不安定なyoshiを1人に出来ない。  仕事といっても薫との仕事。  理由を話せばyoshiの側に居ろと言ってくれるかも知れない。  でも、 後が怖い。  yoshiに会いたがる薫に会わせるはめになるかも知れない。 「ほら、早く行かないと」 yoshiに送り出された。 気になりながらも車に乗り込む。 やはり誰かに……と思い携帯を取り出す。 ブッブーッ、 タイミング良く、着信で携帯が振動する。  着信は光一。  「もしもし」 電話に出る。  「豊川、yoshiは?どうしてる?」 心配そうな光一の声。 「心配なら……見に行っていいぞ?今から出掛けなきゃ行けないんだ」 「えっ?いいのか?」 何だか遠慮がちな光一に笑えた。いつもなら、俺が父親だぞっ!って言うのに。  「もちろん」 「分かった。すぐに行く」 光一は慌てて電話を切った。 父親との時間……取り戻せたら良いな。  豊川はそう思いながら車を走らせた。 ****** 「そんなに心配なら子猫ちゃん連れてくれば良かっただろ?」 夜景が見えるガラス張りのバーで薫にニヤニヤされながら言われる。 「お前の毒牙にかけたくない」 「人聞きの悪い事言うな、まあ、お前と子猫ちゃんを激しく抱くのも良いなって思うけどな」 「だから連れて来たくないんだよ」 豊川は露骨にため息を吐く。 ビジネスの話の合間、余りにも時間を豊川が気にするので薫にからかわれたのである。 「光一に頼んでるけど…………」 仲良くしてくれていれば良いけど。 「光一にはまだ言ってねえんだろ?息子に手を出して毎晩喘がせてるって」 「下品な言い方するな」 「事実だろ?子猫ちゃんに自分のチンポぶち込んでる」 「薫」 ニヤつく薫に豊川はキツく名前を呼ぶ。 「いつ言うんだよ?」 「それは……」 強気な豊川はその事に触れられると少々、迫力が無くなる。 「まあ、精神的な面もあんだろ?子猫ちゃん」 「………義父が死んだのは自分のせいだと思ってるし、光一の記憶も……」 「サバイバーズ・ギルトってやつか」 「サバイバーズ・ギルト…」 戦争や災害、事故、事件、虐待などに遭いながら、奇跡的に生還を遂げた人が、周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対して、しばしば感じる罪悪感。(survivor)は「生き残り・生存者・遺族」を、「ギルト」(guilt)は「罪悪感」を意味する。 確かにそうかも知れない。 yoshiは罪悪感を持っている。  「でも、あれだ、実の父親に手を出している事を言わない理由にはならねえなあ」 薫の言葉にドキンとした。 「お前、光一に嫌われるのが怖いから黙ってんだろ?まあ、普通の父親なら嫌悪感は抱くな。」 言葉を返せない……。 「まあ、相談には乗ってやるよ。ベッドの上でな」 「結構だ」 即答する豊川に薫はニヤつく。  「子猫ちゃんに良いカウンセラー紹介してやろうか?」 「いい」 「ちゃんとした医者だ」 薫は財布から名刺を出して豊川に渡す。

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