238 / 275

君の歌 7話

yoshiは大人に対して失礼かな?って思いながらも頭を撫でるのは、慰める方法を他に知らないから。 小さい時、泣く度にナオや父親に抱き締めて貰って頭を撫でられた。 それは凄く安心出来る行為。 一番されたい行為。 だから自然に頭に手が行ってしまった。 光一の頭を撫でるyoshiの手。 黙って抱き締められてくれているだけでも奇跡なのに、頭まで撫でてくれる。 子供を見れば分かるよ。ってyoshiが言ったように、 そうだな。yoshiを見てたら義父がどんな人だったか分かる。 愛情が深い人。 こんなに優しい子に育ててくれた。 だから、余計に泣けてくる。 ファイルの事を思い出す。 今、撫でている手よりも幼い手で集めて作ってくれたファイル。 だめだ……喉の奥が熱くて、鼻がツンときた。 声が出るのを我慢する度に余計に熱くなって、 溢れてくる涙を必死に止めようとしているのに、頭を撫でられて我慢出来なくなってしまった。  大人なのに情けないって思われているかも知れない。 でも、我慢出来なくてyoshiを力強く抱き締めた。 強く力が増すのと、光一が泣いているのにとっくに気付いているyoshiは、背中をさすり、そして、光一の頭にコツンと自分の頭を寄せた。 頭にも感じるyoshiの温度。  もうちょっと、 もうちょっと、だけ、 息子を抱き締めていたい。 ****** 時間にしたら凄く短いけれど、yoshiの優しさは充分に感じる事が出来た。 もうちょっと、 あとちょっと、という時間を現実に戻したのは着信音。 鳴ったのは光一のスマホ。 光一はゆっくりと名残惜しそうに離れるとスマホを手にする。 着信は拓也で、 また何かあったのかと慌てて電話に出た。 「あ、ごめん、仕事中?」 気遣う拓也の声。  光一はyoshiに背を向け、涙を拭きながら「いや、終わったとこ。どうした?」と答える。 「ごめん、智也がどうしても話したいって」 「智也?いいけど?」 どうしたのだろうと思っていると「お父さん。あのね、絵本って僕の?」いきなり出た智也は子供特有の主語がない話で、光一はキョトンとなる。 「絵本?何の絵本だ?」 「紙袋に入ってたやつだよ。テーブルの下にあったの、猫の絵本ーっ」 猫の絵本……?  記憶をたどり、 あっ……、とリナから貰った絵本を思い出す。  yoshiへのお見舞い。  やばい、忘れてた。  「僕の?」と聞いてくる智也。  答えに困っていると、  「違うんじゃねえの?智也は絵本って年じゃないだろ」 と拓也の声も聞こえてきた。  「そんな事ないよーっ」 と拗ねたような智也の声に、 「うん。智也のだよ。この前、本屋行った時に面白そうだったから」と答えた。  「本当?わーい、ほら、やっぱり僕のだよ」 と嬉しそうな弾む声。  「何でテーブルの下に置いてんだよ、隠したつもり?」 智也に代わり拓也が電話口に出た。  「違う、違う、多分落としたまんたまだ。ごめん」 「ふーん、別にいいけどさ…珍しいじゃん」 「智也、寂しいかな?ってさ、拓也も何か欲しいものあったら」 「ないよ………あっ」 ぶっきらぼうに答えた拓也は何か思い出したようだが「やっぱいいや、じゃあな」と電話を切った。 

ともだちにシェアしよう!