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君の歌 7話
yoshiは大人に対して失礼かな?って思いながらも頭を撫でるのは、慰める方法を他に知らないから。
小さい時、泣く度にナオや父親に抱き締めて貰って頭を撫でられた。
それは凄く安心出来る行為。
一番されたい行為。
だから自然に頭に手が行ってしまった。
光一の頭を撫でるyoshiの手。
黙って抱き締められてくれているだけでも奇跡なのに、頭まで撫でてくれる。
子供を見れば分かるよ。ってyoshiが言ったように、 そうだな。yoshiを見てたら義父がどんな人だったか分かる。
愛情が深い人。
こんなに優しい子に育ててくれた。
だから、余計に泣けてくる。
ファイルの事を思い出す。
今、撫でている手よりも幼い手で集めて作ってくれたファイル。
だめだ……喉の奥が熱くて、鼻がツンときた。
声が出るのを我慢する度に余計に熱くなって、 溢れてくる涙を必死に止めようとしているのに、頭を撫でられて我慢出来なくなってしまった。
大人なのに情けないって思われているかも知れない。
でも、我慢出来なくてyoshiを力強く抱き締めた。
強く力が増すのと、光一が泣いているのにとっくに気付いているyoshiは、背中をさすり、そして、光一の頭にコツンと自分の頭を寄せた。
頭にも感じるyoshiの温度。
もうちょっと、 もうちょっと、だけ、 息子を抱き締めていたい。
******
時間にしたら凄く短いけれど、yoshiの優しさは充分に感じる事が出来た。
もうちょっと、 あとちょっと、という時間を現実に戻したのは着信音。
鳴ったのは光一のスマホ。
光一はゆっくりと名残惜しそうに離れるとスマホを手にする。
着信は拓也で、 また何かあったのかと慌てて電話に出た。
「あ、ごめん、仕事中?」
気遣う拓也の声。
光一はyoshiに背を向け、涙を拭きながら「いや、終わったとこ。どうした?」と答える。
「ごめん、智也がどうしても話したいって」
「智也?いいけど?」
どうしたのだろうと思っていると「お父さん。あのね、絵本って僕の?」いきなり出た智也は子供特有の主語がない話で、光一はキョトンとなる。
「絵本?何の絵本だ?」
「紙袋に入ってたやつだよ。テーブルの下にあったの、猫の絵本ーっ」
猫の絵本……?
記憶をたどり、 あっ……、とリナから貰った絵本を思い出す。
yoshiへのお見舞い。
やばい、忘れてた。
「僕の?」と聞いてくる智也。
答えに困っていると、
「違うんじゃねえの?智也は絵本って年じゃないだろ」
と拓也の声も聞こえてきた。
「そんな事ないよーっ」
と拗ねたような智也の声に、 「うん。智也のだよ。この前、本屋行った時に面白そうだったから」と答えた。
「本当?わーい、ほら、やっぱり僕のだよ」
と嬉しそうな弾む声。
「何でテーブルの下に置いてんだよ、隠したつもり?」
智也に代わり拓也が電話口に出た。
「違う、違う、多分落としたまんたまだ。ごめん」
「ふーん、別にいいけどさ…珍しいじゃん」
「智也、寂しいかな?ってさ、拓也も何か欲しいものあったら」
「ないよ………あっ」
ぶっきらぼうに答えた拓也は何か思い出したようだが「やっぱいいや、じゃあな」と電話を切った。
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