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君の歌 8話
***
「何、智也?」
電話を切った光一にyoshiは明るく話掛ける。
普段と変わらずに… 泣いていた事に触れずに、笑顔を向けてくれるyoshiに光一も自然と笑顔になる。
「うん」
「そっか、そっか、良い父親じゃん。智也待ってんだろ?俺はいいから、もう帰れよ」
yoshiは光一の肩をポンポンと叩くと、 子供が好きそうなケーキを選び、光一に渡す。
「でも、」
「俺よりも智也に拓也が大事だろ?寂しくて電話してきたんだろうし」
yoshiは光一の背中を押す。
「豊川に留守頼まれてんだよ」
「豊川さんもすぐに帰ってくると思うし、心配すんな」
押しに押され玄関へと来てしまった。
「光一、ありがとう」
もう帰るしかない状況。
仕方なく靴を履き、ドアに手をかける。
「また、明日な」
yoshiに声をあけられ「うん、また、あした」と笑った。
パタンとドアが閉まる。
光一は何度も振り返りながら歩く。
ドアが開いて、呼び止めて欲しい気持ちが心に浮上している。
でも、現実にはドアなんて開かないし、呼んでもくれない。
家族の元へ帰れと言われる。
車へとたどり着き、乗り込むと、豊川に一応、連絡をいれようとスマホを出す。
ナイスタイミングでyoshiからのメール。
急いで開ける。
ありがとう。
頑張れよ。
短い文章。
でも、凄く優しい文章。
「ありがとう嘉樹」
小さく呟く。
豊川は電話中で繋がらないのでメールを打っておいた。
すぐに帰ってやれ、と。
yoshiはどうして、 あんなに豊川に懐くのかなあ~ ちくしょーっ、豊川のバカ。
*****
光一が帰った後、yoshiは玄関に座り込んだ。
いいなあ。
家族かあ…
会いたいなあ………お父さんに。
yoshiは膝を抱えたまま涙ぐむ。
*****
豊川は電話を切ってすぐに光一のメールに気付いた。
早く帰れという内容。
メールは10分前に受信していた。
過保護だと思うが、豊川はyoshiに電話を入れる。
―――
――――――
何度コールしても出ない。
風呂に入ってるかも知れない。
片付けをしていて気付かないのかも、
良い方へ考えてみようとするけれど、どうしても万が一を考えてしまい、急いで車に乗り込む。
薫との話は終わっていた。
終わってすぐ、帰れば良かった。
マンションまで、何度か間を空けて電話を入れてみたが、やはり出ない。
気ばかりが焦ってしまう。
*****
キーを差し込む時間もおしいと思うくらいな勢いでドアを開けた豊川。
目に飛び込んで来たのは玄関に座り込んでいるyoshi。
「嘉樹?」
具合でも悪いのかと近付く。
壁に寄りかかるようにしている彼は眠っているみたいで、ホッとした。
ずっと玄関に?
身体を揺すってみると、目をあけて、豊川を見つめた。
「ただいま」
ニコッと微笑む。
ぼんやりとした視界に豊川の微笑む顔と、ただいま。という声。
「たける」
名前を呼ぶyoshi。
「ずっと玄関に居たのか?」
豊川の温かい手が頭を撫でてきて、ああ、実体だと、yoshiはようやく彼に抱きついた。
「タケルおかえり」
ぎゅっと抱きつくyoshiを豊川も抱き締めて「ごめんな、寂しかったな」と頭を何度も撫でてくれた。
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