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キズナ 5話
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「拓也くん」
何時もの通学路で声を掛けられた。
拓也が振り向くと、車の窓を開けてこちらを見る中年の男性。
「仁田水さん……」
身体が強張る。
「学校まで送るよ」
声をかけてきたのは仁田水。
DNA鑑定では親子だと証明された人。
つまりは本当の父親。
「いえ、大丈夫です」
拓也は軽く頭を下げると歩き出す。
数歩、歩くとバタンと音がして、自分に駆け寄る足音。
「拓也くん、逃げないでくれ」
腕を掴まれてビクンとなる拓也。
怖い……凄く怖い!
現実を叩きつけられたようで怖い。
「……そんなに怯えられたら、何かへこむな」
仁田水は拓也の手を離すと苦笑いをした。
「別に怯えては……」
でも、目は合わせられない。
「なんか、ごめんな。少しでも話せたらって思ったんだ」
仁田水は、少しため息をつく。
「君に名乗り出た事、凄く後悔した。」
驚いて顔を上げる拓也。
「今の君が凄く怯えていて、傷ついた顔をしているから……デリケートな問題なのに、自分の感情だけで君を傷つけた。謝るよ、ごめんなさい」
仁田水は拓也に頭を下げると向きを変えて車へ戻って行く。
意外だった。
子供の自分に頭を下げて謝る大人。
彼は謝る為だけに来たのか?
初めて声を掛けられた時の印象は悪くなかった。
物腰が軟らかくて、上品そうな感じで、 優しそう。
そんなイメージだった。
「あ、あの」
拓也は彼に声を掛ける。
「やっぱり送って下さい」
そう言葉にすると仁田水は、嬉しそうに笑った。
拓也が車に乗り込むと、ゆっくりと走り出す。
「拓也兄ちゃん」
智也がその姿を見ていた。
「ありがとう」
運転席から仁田水が微笑む。
「気を使ってくれて」
仁田水にはやはり気を使っている事はバレていたようだ。
「いえ……こっちもすみません、何か怯えたりとか、そんな態度」
話はするものの、目は合わせられない拓也。
「当然だろ?正体不明な中年男が近づいて来たら、それだけで犯罪に巻き込まれるんじゃないかと警戒するよ」
自分を卑下してくる仁田水。
チラリと彼に目線を向ける。
どこか、自分に似ていると感じた。
あの人よりも、断然に似ているパーツがある。
そして、落ち込むのだ。やはり、血が繋がっていない他人なのだと。
「昨日、君のお母さんに会ったよ」
ドキンと心臓が激しく脈打つ。
「どうして?」
自分で質問をしながら、答えを聞くのが怖い。
「どうして君に名乗り出たのかと叱られたよ」
ああ、そうか…あの人にバレるのが怖いからか……、 自分の事ばかりか。
拓也は母親に怒る気力さえ無くなった。
「学校………サボろうかな?」
つい、出た言葉。
「拓也くん」
仁田水は車線を変更すると「じゃあ、ドライブ行こうか?」と拓也を誘った。
仕事は?と聞こうかと思ったが「はい」と返事をした。
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「まだ時間があるな、どこか行きたい所は?」
ハンドルを握る豊川はチラリとyoshiを見る。
「タケルとならどこでも嬉しい」
微笑むyoshi。
ああ、そうだった、この子はスーパーでも喜ぶ子だったな。と豊川も微笑み返す。
「じゃあ、ちょっとドライブするか」
「うん」
嬉しそうに微笑むyoshiの頭を撫でる。
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沈黙が続くかと思った仁田水とのドライブは意外と話が弾む。
仁田水は色んな事をしていて、拓也が話す会話に普通についてくる。
ゲームや漫画、 ドラマにアイドルまで、段々と打ち解けてきた拓也に仁田水も嬉しそうに微笑む。
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