244 / 275

キズナ 5話

***** 「拓也くん」 何時もの通学路で声を掛けられた。 拓也が振り向くと、車の窓を開けてこちらを見る中年の男性。 「仁田水さん……」 身体が強張る。  「学校まで送るよ」 声をかけてきたのは仁田水。  DNA鑑定では親子だと証明された人。  つまりは本当の父親。 「いえ、大丈夫です」 拓也は軽く頭を下げると歩き出す。  数歩、歩くとバタンと音がして、自分に駆け寄る足音。 「拓也くん、逃げないでくれ」 腕を掴まれてビクンとなる拓也。 怖い……凄く怖い!  現実を叩きつけられたようで怖い。  「……そんなに怯えられたら、何かへこむな」 仁田水は拓也の手を離すと苦笑いをした。 「別に怯えては……」 でも、目は合わせられない。 「なんか、ごめんな。少しでも話せたらって思ったんだ」 仁田水は、少しため息をつく。 「君に名乗り出た事、凄く後悔した。」 驚いて顔を上げる拓也。 「今の君が凄く怯えていて、傷ついた顔をしているから……デリケートな問題なのに、自分の感情だけで君を傷つけた。謝るよ、ごめんなさい」 仁田水は拓也に頭を下げると向きを変えて車へ戻って行く。 意外だった。  子供の自分に頭を下げて謝る大人。  彼は謝る為だけに来たのか?  初めて声を掛けられた時の印象は悪くなかった。 物腰が軟らかくて、上品そうな感じで、 優しそう。  そんなイメージだった。 「あ、あの」 拓也は彼に声を掛ける。 「やっぱり送って下さい」 そう言葉にすると仁田水は、嬉しそうに笑った。  拓也が車に乗り込むと、ゆっくりと走り出す。  「拓也兄ちゃん」 智也がその姿を見ていた。 「ありがとう」 運転席から仁田水が微笑む。  「気を使ってくれて」 仁田水にはやはり気を使っている事はバレていたようだ。  「いえ……こっちもすみません、何か怯えたりとか、そんな態度」 話はするものの、目は合わせられない拓也。 「当然だろ?正体不明な中年男が近づいて来たら、それだけで犯罪に巻き込まれるんじゃないかと警戒するよ」 自分を卑下してくる仁田水。 チラリと彼に目線を向ける。 どこか、自分に似ていると感じた。 あの人よりも、断然に似ているパーツがある。  そして、落ち込むのだ。やはり、血が繋がっていない他人なのだと。  「昨日、君のお母さんに会ったよ」 ドキンと心臓が激しく脈打つ。 「どうして?」 自分で質問をしながら、答えを聞くのが怖い。 「どうして君に名乗り出たのかと叱られたよ」 ああ、そうか…あの人にバレるのが怖いからか……、 自分の事ばかりか。  拓也は母親に怒る気力さえ無くなった。  「学校………サボろうかな?」 つい、出た言葉。 「拓也くん」 仁田水は車線を変更すると「じゃあ、ドライブ行こうか?」と拓也を誘った。  仕事は?と聞こうかと思ったが「はい」と返事をした。 ****** 「まだ時間があるな、どこか行きたい所は?」 ハンドルを握る豊川はチラリとyoshiを見る。  「タケルとならどこでも嬉しい」 微笑むyoshi。  ああ、そうだった、この子はスーパーでも喜ぶ子だったな。と豊川も微笑み返す。  「じゃあ、ちょっとドライブするか」 「うん」 嬉しそうに微笑むyoshiの頭を撫でる。  ****** 沈黙が続くかと思った仁田水とのドライブは意外と話が弾む。  仁田水は色んな事をしていて、拓也が話す会話に普通についてくる。  ゲームや漫画、 ドラマにアイドルまで、段々と打ち解けてきた拓也に仁田水も嬉しそうに微笑む。 

ともだちにシェアしよう!