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キズナ 6話
緊張感すら感じなくなっていた。
「あ、飲み物買おうか?」
仁田水は有名チェーンのコーヒーショップを指さす。 拓也がたまに友人と他のチェーンに立ち寄るコーヒーショップだ。
「はい」
と返事を返すと、車はコーヒーショップの駐車場へと入って行く。
「買ってくるよ、何がいい?」
車を停め、シートベルトを外す仁田水。
「あ、俺、あっ、僕も行きます」
拓也もシートベルトを外す。
「そっか、じゃあ一緒に行こう」
2人で車を降りてショップ内へ。
メニューを見ながら飲みたい物を決めるが、拓也はいつも飲む物が決まっていて、定番の物を選ぶ。
仁田水も直ぐに決めたみたいで注文をする。
後は飲み物を受け取る場所まで行くだけ、 少し離れた受け渡し場所で「あ、」と先にその場にいた若い男の子が拓也に気づき声を上げた。
「この間の」
ニコッと拓也に微笑んできたのは、yoshiだった。
拓也も姿を見て、声が出そうだったけど、先に声を上げたのはyoshi。
yoshiにペコリ頭を下げる。
「あれえ?学校って休み?」
制服姿の拓也。
時間的には授業中のはず。
「えっ、あ、サボリ」
正直に答える。
「そっかあ、俺も良く学校サボったなあ」
凄く人懐っこい笑顔のyoshi。
改めて彼をみると、 綺麗だ。
ううん、可愛い。
実際、店内に居る女の子はチラチラとyoshiを意識しているみだいだ。
「拓也くんのお友達?」
拓也の後ろにいた仁田水もyoshiが気になったみたいだ。
なんて、説明しよう。
拓也は「顔見知りです」と答える。
yoshiは自分の正体を知らないから、言えない。
「同級生?えっと………男の子だよね?」
仁田水は拓也に確認するが、yoshiにもバッチリ聞こえていたようで、
「俺、男ですよ?前も何か女の子に間違えられて」
と仁田水を見て苦笑い。その顔さえも可愛い。
「ああ、ごめんね。凄く綺麗な顔してるから、うん、ひょっとして拓也くんの彼女とかね、一瞬思って…申し訳ない」
仁田水はしどろもどろでyoshiに頭を下げた。
その姿にyoshiは笑うと「ついでに言うなら、俺、二十歳です」と付け加えた。
「ええ、重ね重ね申し訳ない」
罰悪そうな仁田水。
「いいえ。慣れました」
ニコッと笑うyoshi。
ちょうどyoshiが頼んだコーヒーが2つ来た。
それを受け取るyoshi。
「じゃあ、お先に」
そう言うyoshiに「ねえ、もう歌わないの?あの場所に何回か行ったけど居なかった」と拓也は呼び止める。
「あ、そうなの?ごめん、最近、体調崩してて」
申し訳なさそうなyoshi。
「あ、喘息?」
「うん、そう。あれ?何で知ってるの?」
不思議そうな顔で拓也を見るyoshi。
「嘉樹」
彼の名前が呼ばれ、yoshiはその人に笑いかけた。
「あれえ?拓也くん」
yoshiの側に来たのは豊川。
拓也を見て驚く。
拓也はペコリと豊川に頭を下げる。
「何で?…学校は?」
そう聞きながら仁田水をチラリとみた。
どこかで?
記憶の中、捜すように考えを巡らせるが記憶に仁田水はヒットしない。
こんな時間に中年男と未成年。
勘ぐってしまう。
拓也は察知したのは豊川の腕を引っ張り、yoshiと仁田水から少し離れた。
「あの人、ヤバい人でもないし、変な関係じゃないから、お父さんには何も言わないでよ」
豊川にそう頼み込む。
「まあ、拓也くんがそう言うなら、変な人じゃないだろうね」
「仁田水さんって言うんだ。………ねえ、豊川さんが嘉樹と暮らしてんの?」
「えっ?……何で知って……」
少し困惑気味の豊川。
「お父さんがへこんでるよ、嘉樹は豊川さんにばかり懐くって……ねえ、嘉樹をさ、お父さんに返してあげてよ、あ、違うか、別に取ってないもんね。えっと、一緒に暮らさせてあげてよ」
拓也の目は真剣で、 そして、いつも光一をあの人とか言っていたのにお父さんと呼んでいる。
心境の変化か?
「どうせ、離婚するよ。ううん、もう解放してあげなきゃかわいそうだもんな」
拓也の大人っぽい言葉に豊川は戸惑う。
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