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キズナ 8話

***** 「良かったのかな?」 走る車内、仁田水は気にするように拓也に話掛ける。遠目に見て、深刻そうだった。 「学校サボった事、チクらないでと言っただけです」 ニコッと笑って見せる拓也。 仁田水はそれが嘘だと分かっていたが、それ以上は触れなかった。 「それよりも、仁田水さんも何話してたんですか?結構盛り上がっているように見えましたよ」 それはyoshiとの事。2人とも笑顔で楽しそうに見えた。 「彼が人懐っこいから、つい……余計な事まで言った気がするよ」 「えっ?」 拓也の表情が一瞬、不安そうな影が見えた。 もしかして、血の繋がりの事を言ったのか?という不安。 「君が新崎光一の子供だって」 ああ、そっちか。 なんて、ホッとするが、余計に不安も襲ってくる。 だって、血の繋がりがない。 出来たら知らないで欲しかった。 知らないままに自分が離れた方がyoshiの為には良いんじゃないかって。 「血の繋がりなんて無いのに」 拓也は寂しく笑い「嘉樹……彼が新崎光一の実の息子ですよ。正真正銘、血が繋がった」と言った。 「えっ?」 仁田水は驚いたように拓也に視線を向ける。 驚くのは、yoshiが光一を他人扱いをしていたから。 拓也の存在も知らない、父親を呼び捨てをしていて、本当に他人のような。 「理由があるみたいだよ」 拓也は光一やマコトに聞いた話を仁田水に話した。 yoshiの了解も無しにこんな話をするのはいけない事かも知れない。 もしかして、悪用されるかも……ほんの一瞬考えたが、 なんとなくだけど、仁田水はそんな事をしない。そんな気がして、話した。 「そうか」 仁田水は真剣な顔で話を聞いていた。 「そうです。変な話ですよね、血の繋がりがない子供を育てて、血が繋がった子供を手放している。………嘉樹が可哀想だ」 拓也はそう呟いて俯く。 「拓也くん」 仁田水の大きな手のひらが頭に乗せられた。 子供じゃないと、振り払おうとすれば出来るけれど、それをしたくないのが何故なのか自分でも分からない。 「ごめん…」 仁田水の謝罪は何に対してなのだろう?なんて考える。 「私の自分勝手な感情で君を傷つけている」 「別に………いいよ。これは事実でしょ?遅かれ早かれ分かった事実だろうし」 「いや、私が名乗り出なかったら…」 「もうやめましょう。………どうやったって事実は変えれないですから。それに意外と割り切っている自分が居るんです」 拓也の大人びた発言に仁田水は頭を撫でられずに居られなかった。子供だった彼をこんなに早く大人にしてしまったのは自分だ。 初めて会った時、年相応な感じだったのに、自分が名乗り出てから、子供じゃなくなっている。 そんなに辛い現実を突きつけてしまったのかと後悔せずには居られない。 「嘉樹はあの人の才能を受け継いでいるよね。若い頃に似ているんだってさ、綺麗で可愛くて」 拓也は笑っているのに、泣きそうな顔に見える。 「確かに綺麗な子だったね。人懐っこいし」 仁田水の言葉に拓也は頷く。 「でも……私は、……親バカって言われようが、拓也くんの方が格好良くて、賢くて、優しい子だと思うよ」 仁田水はそう言って拓也の頭を軽くポンっと叩く。 「……ばか」 じゃない?って言うはずが、言葉の代わりに涙が零れた。 ポロポロと。 なんで?何で泣くんだよ! 拓也は慌てて涙を手のひらで拭く。 頭の上の仁田水の手のひらは温かくて、涙が止まらない。 ***** 「拓也って光一の子供だったんだね、智也しか会った事無かったからさ」 yoshiはそう言うとアイスコーヒーをストローで飲む。 「本人に聞いたのか?」 「ううん、一緒に居た人。あ、タケルのファンだって言ってたよ」 「一緒に居た人、名前分かるか?」 「えっ?あ、聞いてない!どうかしたの?」 首を傾げる彼。 「いや、何でもないよ」 豊川は誤魔化すように笑う。 何かが変わって来ている事は確かだ。 豊川はyoshiの手をギュッと握る。 「どうしたの?」 握られた手は力が入っているのでyoshiは豊川に視線を向けた。 「繋ぎたいだけだよ、駄目か?」 「駄目なわけないじゃん」 yoshiは照れくさそうに微笑む。 可愛いyoshiを守る為には今、何が起こっているか知る必要がある、マコトに会って話を聞きたいがドライブ途中で戻るのは…………チラリとyoshiを見る。 楽しそうな彼。 もう少しドライブをして………と思っていたら「タケル、やっぱ、何かあっただろ?」とyoshiが聞いてきた。 「えっ?」 鋭いな?と感じた。 「仕事でしょ?」 yoshiは豊川に微笑む。 「いつも、俺優先じゃ社会人失格」 「嘉樹」 豊川はつい、笑う。 「事務所行こう。朝のドライブだけで十分だもん」 「ごめん」 豊川はyoshiの好意に甘える事にした。 そして、車を車線変更する。 ***** 「落ち着いた?」 車は海が見える場所で停車していた。 仁田水の質問に拓也は頷く。 黙って泣きやむまで横に居てくれた仁田水。 優しい人だな。再度確認した。 「もう少し待って下さい」 「えっ?」 「父に……まだ言わないで下さい。高校は寮に入って良いって言われているから、それまで待って下さい」 拓也は仁田水に頭を下げる。 「もちろん……拓也くんの心の整理出来るのを待つよ」 仁田水は優しく微笑む。 「ありがとうございます」 あと少し、まだ、あと少しだけ。 家族でいたい。 せめて、あの人の血を引く息子が思い出すまで。 1人じゃないと、あの人が安心出来るまで、それまでは一緒に居たい。

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