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キズナ 9話
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「マコト、呼び出して悪いな」
社長室、マコトを呼び出した豊川。
「いいよ、あれ?yoshiくんは?」
キョロキョロと周りを見るマコト。
「まだ調子悪いの?」
「いや、サクの仕事の手伝いに行かせた」
「離ればなれって珍しいね。タケちゃん心配でしょ?」
「心配だけど仕方ない………聞かせたくない話だから」
豊川はマコトをソファーへ座らせ、コーヒーを出す。
「なあに?コウちゃんの事?」
yoshiに聞かせたくない話とくれば光一の話しかない。
「それもある。……拓也くんに今朝会ったんだ」
「えっ?どこで?」
「コーヒーショップ。知らない男といたよ」
豊川の言葉にマコトは、反応を示す。やはり、何かを知っているのかと、思う。
「学校じゃないのかな?何してたの拓也くん」
「サボったとか言ってたけど、私が言いたいのはそれじゃなくて、拓也くんが言ってたんだ、光一が離婚するだろうから、嘉樹を光一に返せって」
「えっ………」
戸惑うようなマコトの表情。
「お前に詳しくは聞くように言われた。マコト、何を知っている?」
真剣な眼差しで見つめられてマコトは困ったように俯く。
「拓也くんがお前に聞けと言ったのだから、知っている事を全部話してくれ、嘉樹の為にも」
嘉樹。
名前を出され、マコトは覚悟を決めた。
何時までも隠せない事だし、嘉樹にも深く関わってくる。
「わかった……話すよ」
マコトは拓也の話を始める。
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「yoshiくんが単独行動って珍しいよね」
一緒に機材を運ぶyoshiに佐久間は笑顔で話掛ける。
「そう?」
「そうだよ、社長は絶対にyoshiくんの側に居るイメージが強いからさ」
「そうかなあ?」
佐久間に言われて考えながら答えるyoshi。
事務所に着くと佐久間が居て、スタッフが足りないと豊川に言ってきたのだ。
それで豊川に手伝うように言われたが、 嫌だとは思わなくて、豊川に頼まれ事をされたのが嬉しくてふたつ返事で引き受けた。
豊川の役に立てる!
そんな些細な事が嬉しい。
「ねえ、サクちゃん何を手伝えばいい?」
返事をしたものの、内容までは聞いていなかったyoshi。
「雑用を頼む」
「機材運んだりとか?」
「いや、これより重いものは他の奴らに頼むからさ、yoshiくんは俺が今から撮るタレントのご機嫌でも取って」
「えっ?それって一番難しくない?まだ荷物運んだりとかが良いよ」
タレントとかの相手なんて無理!
だって下手すれば機嫌損ねて怒らせるかも知れないじゃないか!
「いや、むしろyoshiくんじゃなきゃ駄目だと思うな」
佐久間がニヤリと笑ったので「もしかして知ってる人?」と勘が働く。
「良く知ってる人」
佐久間が目の前のドアを開けた。
「あっ、」
yoshiは中を見て短く声を上げた。
「嘉樹…」
名前を呼んで少し驚いたような表情を見せる光一が居た。
「なんだあ、光一かあ」
なんとなくホッとするyoshi。
「何で居るんだ?豊川は?」
光一も佐久間と同じ考えのようで、豊川をキョロキョロとしながら捜す。
「豊川さんは事務所。俺にサクちゃん手伝って来いって」
yoshiは中へと入り持っていた機材を置く。
「嘉樹を1人にするなんて珍しいなあ」
「それ、サクちゃんにも言われた」
笑ってしまうyoshi。 タケルは誰が見ても過保護なんだな。そう思った。
「じゃあ、yoshiくん光一さんを宜しく」
佐久間は二人にヒラヒラと手を振り、次の作業に取りかかる。
「えっ?よろしくって何?」
2人の間のやり取りを知らない光一はキョトンとしている。
「光一の世話しろってさ、で、何して欲しい?」
「何?何って、うーん…とりあえず飲み物」
「自販機ある?」
「あるよ、出たら左側。ほら、嘉樹の分も」
光一はポケットから小銭を出す。
「財布持ってないの?」
「前に無くしてそれっきりだな」
光一はyoshiの手のひらに小銭を置く。
「コーヒー?」
「だな」
光一が返事をすると、yoshiは自販機へと向かう。
その後ろ姿見ながら、何だかニヤニヤが止まらない光一だった。
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