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キズナ 10話
何時もは豊川が側に居る。
それが、今日は居ない。yoshiとの時間が取れるという喜びでニヤニヤが止まらない光一であった。
*****
「嘉樹くん?」
自販機側で名前を呼ばれて振り返る。
「こんにちは」
yoshiは名前を呼んだ相手に微笑みかける。
「嘉樹くんも撮影なの?聞いてなかったけど」
そう言ったのは灯。 メイク係な彼は首を傾げた。
「あ、今日は違うよ。サクちゃんの手伝い」
「手伝い?えっ?仕事で?」
「そう。豊川さんに手伝って来なさいって頼まれたから」
「えっ?豊川さん一緒じゃないの?」
驚いたような声を上げる灯。それにはyoshiも苦笑い。
そんなに驚く事かな?
笑ってしまいそうになる。
「豊川さんは事務所で仕事しているよ」
「そっかあ、何か嘉樹くんといつも一緒に居るイメージだったからさ………凄くうらやましいけど」
「えっ?」
最後の言葉を聞き返すyoshi。
「いや、豊川さんって優しいし、僕の言った事気にしないで」
灯はあははっと笑う。
気にしないで、なんて言われたら気にしてしまうのが人間の性である。
yoshiは分かったと言ったものの、気になってしまう。
光一に頼まれたコーヒーを手に現場に戻る。
灯が来たので現場が忙しくなってきた。
佐久間がせわしなく動いているので何か手伝うと言っても「光一さんと居て」と言われてしまう。
撮影は待ち時間が長いのが基本。
時間つぶしが大変である。
光一のメイクも始まったので、それを見ながらたわいもない会話を交わす。
*****
「何だよソレ……」
マコトに拓也の話を聞いた豊川は、 言葉を失う。
本当に何だソレ!と思った。
拓也が光一の実の子供ではないという事実。
まだ何も知らない光一の心配をせずにはいられない。そんな事態になっていたなんて想像もしていなかった豊川。
そして、拓也と一緒に居た男が父親なのか?と思った。
「拓也くんは父親と名乗る男と一緒だった。そっちに行く気なのか?」
「………多分、拓也くんはコウちゃんと居るのが辛いって泣いてた。嘉樹くんと暮らせないのも可哀想だって、拓也くん優しい子だから」
マコトはそう言って俯く。
目に涙の粒が光って見える。
拓也とも赤ちゃんの時から一緒だったマコトには自分の事のように感じるのだろう。
「光一には誰が言うんだ?」
「拓也くんがもうちょっと待ってって、……きっと自分で言うつもりなのかも知れない」
「あんな子供に言わせるのは駄目だ!第一、母親はどうしているんだ?彼女は光一の子供じゃないと分かっていたのに産んだのか?」
豊川は麻衣子を責めるような発言をする。
「麻衣子さん…この事を避けてるんだ。話をしてくれない」
「そんな、……分かった。私が行く」
豊川はそう言って考え込む。
避けては通れない道。
光一にとっても、 拓也にとっても……………そして、yoshiにとっても。
自分でも最低だと思うが豊川が一番心配しているのはyoshiの事。
もう、傷つかせたくない。
自分が壁になって彼を守りたい。
******
シャッター音が響く、 光一が撮影に入ると、さらに現場が忙しくなる。
それをyoshiはぼんやりと見つめていた。
拓也が光一の子供かあ。
知らなかったなあ。
なんて、拓也を思い出していた。
あまり会話がないと言っていた光一と、出会った日に泣いていた拓也。
親子の間で何かあったんだろうな?とは思う。
きっと、思春期によくあるすれ違い。
光一を見ていると、拓也みたいな大きい子供が居るように見えない。
もちろん豊川の方がカッコイいが、 光一もなかなか、 カッコイい。
「意外」
光一を見て、ふんわりと笑った。
すると、光一と目が合って、彼もyoshiを見て微笑んだ。
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