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キズナ 12話

座ると直ぐに、年配の男性がメニューと水を運んで来た。 あの人は居ないの? yoshiは無意識に声が義父に似ているスタッフを捜していた。 「また、来てくれたんだね」 メニューを置きながらyoshiに微笑みかける。 頷くyoshi。 「注文決まったら呼んで下さいね」 そう言って、スタッフは下がって行った。 「常連なんだな」 光一はメニューを開く。 「何がオススメなんだ?」 「さあ?」 ぶっきらぼうに答えるyoshi。 「さあ?って、常連なんだろ?」 「一回しか来た事ない。」 「はい?一回?」 「悪いか?美味しかったんだよ」 常連だと思っていた光一は一度しか来たことがないと言ったyoshiを見つめていた。 じっと見られるのが気に食わないのか、不機嫌そうな顔になる。 「それはありがとう」 不意に声がしてyoshiは声がした方を見る。 あの男性がニコッと微笑んでいた。 「今日のオススメは煮込みハンバーグなんです」 光一にオススメを説明する声はやはり似ている。 「じゃあ、それを。嘉樹は?」 「えっ?あ、俺も」 ぼんやりと声に聞き入っていたyoshiは慌てて答えた。 「はい。かしこまりました」 男性は優しく微笑みメニュー表を手に奥へと入って行った。 良かった。居たんだ。 また、声が聞けてyoshiは嬉しかった。 さっきより、機嫌が良くなっているように見えるyoshi。 あの男性が来てからのような? 「優しそうな人だな」 どう切り出して良いか分からず、光一は当たり障りのない会話をする。 「うん」 ニコッと笑うyoshi。 やはり、あの男性で機嫌が直ったようだ。 誰なんだろう? 豊川と来たと言ったよな?豊川の知り合い? 「なあ、あの人と知り合い?」 「えっ?あの人?」 誰の事だろうとyoshiはキョトンとする。 「あの人」 光一は奥を指差す。 「違うけど?」 「へっ?だって、お前、仲良さそうにさ」 「まだ二回目だけど?」 「二回目?そんな風には見えないけど?」 yoshiの嬉しそうな態度が腑に落ちない光一はしつこく食い下がる。 「別にいいじゃん!うるせえ!」 プイっと横を向くyoshi。 これ以上聞くと帰ると言われそうで光一は引き下がった。 ◆◆◆◆◆◆ 豊川とマコトは光一のマンションに来ていた。 インターフォンを鳴らすが応答はない。 居ないのか? 豊川は時計を見る。 昼を少し回った所。 光一の妻は専業主婦だ。 家に、居るものと思ったが違うようだ。 「居ないみたいだね?タケちゃんどうする?」 応答がないインターフォンを見つめながらマコトが聞く。 「何時に帰るか分からないからな。」 居ても時間の無駄かも知れない。 「事務所に戻ろう」 豊川もそんなに暇ではないので直ぐに決断を下す。 車に戻る為に駐車場に行くとタイミング良く麻衣子の車が戻って来た。 豊川は真直ぐに車へと向かう。 ドアを開け、麻衣子が降りるタイミングと同じく「久し振りだな」と彼女に声をかけた。 少し驚いたように豊川を見た彼女は直ぐに笑顔になり「珍しいわね」と答えた。 「話がある。時間あるか?」 「断れないような迫力ね」 豊川の様子がいつもと違う事くらい麻衣子にも分かる。 「麻衣子さん」 マコトが豊川の後ろから顔を出した。 それで豊川が何をしに来たかを麻衣子は理解したようで、 「そっか、拓也の事ね」 と目をそらし、車のドアを閉める。 「本当なのか?」 そう聞く豊川は得体のしれない迫力を持っていて、目なんて合わせられない。 「聞いたんでしょ?」 「聞いたよ」 「その通りよ」 麻衣子は豊川の横を通り過ぎようとするが腕を掴まれる。 「父親が違うのを知ってて産んだのか!」 掴まれた腕はとても強く、麻衣子は顔をしかめた。 「だったらどうするの?光一に言う?」 麻衣子は言い返すが目は合わせていない。 「最低だなお前」 豊川の口調はとても冷たい。 「自分でも自覚してるわよ」 麻衣子は掴まれた腕を振り払う。 離れないかと思ったが豊川はアッサリと離した。 「光一にいつ話すんだ?」 「他人には関係ないでしょ?」 「他人じゃない」 yoshiの事を思うとそうハッキリと言葉にしてしまう。 「君よりは光一と付き合いが長いんだよ」 「幼馴染は他人じゃない」 「それでも私は他人とは思わない」 「豊川さんって私が嫌いでしょ?」 全く関係がない話しへと麻衣子は持っていく。 「それこそ関係がない」 「私と結婚して欲しくなかったんでしょ?豊川さんだけだもの、結婚式で一度もおめでとう!を言わなかったのは。……きっと、こうなるって思ってたみたいに」 麻衣子はようやく豊川の顔をみた。 「拓也ができた時は新崎の子供だと思ってたのよ。だから産んだの………信じないだろうけど」 麻衣子はそう言うと歩き出す。 「話はまだ」 「もう少し待ってよ。ちゃんと話すから」 麻衣子は振り向きもせずにそう言うと止まりもせずに歩いて行った。 「タケちゃん、どうするの?」 マコトが心配そうに豊川の顔を覗き込む。 「………事務所に戻ろう。」 豊川は踵を返し、車へと歩いた。

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