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キズナ 13話
◆◆◆◆◆◆◆
「美味い!」
料理が運ばれ、さっそく口にした光一は食べるなり叫ぶ。
「だろ?」
美味いと言って貰えて何故か自分の事みたいに嬉しくなるyoshi。
「俺も常連になろうかな?」
光一はチラリとyoshiの様子を伺う。
ダメと言われるかも知れない。なんせ、豊川と来ているようだから、自分は邪魔だと言われそうで不安になったのだ。
「なれば?拓也とか智也とかと来ればいいじゃん」
yoshiはそう言いながら食べている。
なれば?は嬉しいけど、また一緒に来ようとは言ってくれない事に少し寂しさを感じた。
「そうだな。拓也達と来るかな?」
会話が途切れないように光一は無理して答える。
本当はまたyoshiと来たいと言いたいのに。
「子供が好きそうなメニューもあるみたいだし、コミニケーションも取れていいじゃん」
「そうだな。うん、そうする」
そう答えた光一をyoshiはジッと見つめる。
視線を感じた光一は顔を上げて、「どうした?」と聞く。
「素直だなって思ってさ………一応、心配したんだぞ?ほら?最近、なんだか元気ないし……」
それに泣いてたし……と付け加えたかったが飲み込んだ。聞いてはいけないような気がして。
「心配してくれてたのか?」
マジで?
本当にか?yoshiが俺を心配して?
光一の質問に頷く彼を見て、本当だとテンションが一気に上がった。
嬉しい!
めちゃめちゃ、嬉しい!
yoshiが自分の事を少しでも考えてくらていたのかと思うと嬉しくて声を上げたくなるくらいにテンションが上昇している。
「嘉樹は……」
と話かけようとした瞬間にガチャンと食器が床に落ちて割れる音が直ぐ近くでした。
派手な音だったので数人いた周りの客が少しザワついた。
光一も咄嗟に音がした方を見た。
少し離れた席にいた親子連れが皿を落としたようで、子供の足元に破片が散乱している。
「もう!何しているのよ!」
母親が声を上げて、子供を叱りだした。
子供は悪くないだろう、まだ幼い子供で大人が気をつけるべきなのに!光一は叱る母親を怪訝そうな顔でみた。
「直ぐに片付けますから動かないで」
慌てて年配の男性が掃除道具を片手に走ってきた。
光一はようやく視線をyoshiに戻して、彼の様子がおかしい事に気づく。
俯いているyoshi。
「どうした?」
声を掛けるが返事がなく、良く見ると小刻みに身体を震わせている。
あっ、と思った。
震わせていふ彼は寒いとかではなく怯えているのだ。
光一はyoshiの横に席を移し彼を抱き寄せた。
身体に触れて気づく、彼の呼吸がおかしい。
「嘉樹?」
名前を呼ぶがやはり返事はない。
ただ、震えながら呼吸を苦しそうにしている。
どうしよう?
焦る光一の肩に誰かの手が触れて「過呼吸です。彼を連れてこっちに」と真後ろから声がした。
声をかけてきたのはyoshiが嬉そうにした男性。
「奥が自宅なんです、早く」
男性はyoshiの身体を光一から離すと抱き上げ、そのまま奥へと連れて行く。
光一も慌てて、後をついていく。
◆◆◆◆◆
息が苦しい………息をしようともがく度に苦しくなる。
いきなりだった。
食器が割れる音に恐怖を覚えた。
随分昔………凄く小さい時に食器を割って母親に酷く叱られた。
叱られただけじゃなく何度も何度も殴られた。
食器を割っただけなのに、まるで犯罪者みたいに責られ、謝っても許してくれなかった。
ごめんなさい。
何度も何度も言葉にしたのに………
「アンタ、なんて産まなきゃ良かった!アンタのせいであの人は……」
そう言いながら殴られて、あの人って誰だろう?って考えた。
考えても分からなくて、ただ誰かに助けて欲しくてお父さんと口にした。
「お父さんはアンタが嫌いだからアンタを捨てたのよ」
ショックだった。
その言葉は二度と聞きたくない!
お父さんは僕が嫌い。
考えたくない。
必死で手を伸ばすと誰かに手を握られた。
「大丈夫!ゆっくり息をして」
耳元で聞こえたのは大好きな父親の声。
『……おとう……さん?』
必死で握られた手を握り返した。
『お父さんは僕がきらい?』
そう質問をすると抱き締めされた。
「ゆっくり……息をして……良い子だね」
頭を撫でられ少し楽になった。
そして、目を開けると知らない天井が目に飛び込んできた。
「嘉樹?」
視界に光一が自分を覗き込む顔が移る。
光一?
「大丈夫だよ?もう少し眠っていようか?」
父親と同じ声………その声の主の方へ視線を向けるとあの男性が心配そうに自分を見ている。
「ここ……どこ?」
消えそうな声で聞いてみる。
「ここは私の部屋だよ?大丈夫だから心配しないで」
男性から頭を撫でられた。
あ、さっきの……yoshiの頭を撫でてくれていたのはこの手だと気づく。
yoshiは頷くとまた目を閉じた。
◆◆◆◆
良かった!
光一は静かに寝息をたてるyoshiを見て胸をなでおろす。
一時はどうなるかと!
でも、今にここに居る男性の適切な処置のお陰でyoshiは静かに眠っている。
「あの、ありがとうございます。」
光一は男性の背中にお礼を言う。
yoshiの脈をとりながら男性は「落ち着いたみたいで良かった。しばらくは寝かせておきましょう」と答えると、光一の方をむいた。
「新崎さん……あちらで話ましょうか?」
新崎と呼ばれ一瞬驚いたが自分が有名人だと思い出し、相手が名前を知っていてもおかしくないと思った。
場所を変えると男性は名刺を出した。
「はじめまして!私は堺と言います。豊川さんから話は?」
「へ?豊川?」
名刺を受け取りながら光一はキョトンとなる。
そして、名刺をみて彼が何者か分かった。
精神科医。
名刺にはそう書いてある。
「豊川さんから嘉樹くんの治療を頼まれているんです」
「豊川から………」
何も聞いてない。
治療?
治療か………光一は名刺を見つめながら治療の事を考えて行動している豊川に負けた……と感じてしまった。
こんなに愛おしいと思いながら行動さえ起こしていない自分は本当に嘉樹を大事にしているのだろうか?
疑問に感じてしまう。
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