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キズナ 14話

「話はだいたい豊川さんに聞いてます」 堺は光一にコーヒーを渡しながら言う。 「そうですか」 そう答えるしかない情けない自分。 「嘉樹くん、病院怖いんですよね?だから病院じゃなくこんな場所で彼に会ったんです」 淡々と語られる言葉を黙って聞くしかなく、自分は嘉樹をちゃんと支えられていないと感じていた。 「光一さん、落ち込まないで」 ふいにかけられた言葉に光一は顔を上げた。 「豊川さんが貴方がいつも落ち込んでいるって」 豊川め! なんて思いながら、「ですね、落ち込んでばかりです。情けない」と言葉を返した。 「それが普通ですよ。大事なのはこれからです」 堺と同じ言葉を前にマコトに言われたな。なんて思った。 「光一さんも嘉樹くんと一緒に乗り越えましょう?貴方が彼の父親なのだから」 堺の言葉に頷く。 「俺は……あの子の側にいたい。例え嫌われても、幼い頃に守れなかった分を今……支えてあげたい」 光一の本音だ。 こんなに愛しいと思う気持ちがまだ残っていたのかと自分で驚き、そして安心した。 まだ、自分は誰かを愛せるのだと。 ◆◆◆◆◆ 「yoshiくんとコウちゃん何してるかなあ?喧嘩してないといいけど」 事務所に戻る車の中でマコトが呟く。 「喧嘩してる方が安心するよ、喧嘩するほど仲がいいって言うからな」 運転席の豊川はそう返す。 「うん、喧嘩してる時の2人見るの好きだよ。凄く自然に見えるもん」 「そうだな」 「ねえ、タケちゃん……yoshiくんを幸せにしてあげてね。」 突然な言葉に豊川は驚くようにマコトを見た。 「小さな時からyoshiくん……タケちゃんが好きだったのかなあって」 「はっ?」 「なんとなくね。………だって、恋に落ちるの早かったじゃない?yoshiくん、タケちゃんといる時はすごーく幸せそうな顔してるよ?」 「そう……かな?」 yoshiは確かに自分に懐いてくれて、そして、愛してくれている。 「するよ、幸せにする。頃合いをみて、嫁にくれと光一に土下座するよ」 「はあああ?」 今度はマコトが驚いたように豊川を見る。 「なんだよ?マコトが幸せにしろって」 驚くマコトに怪訝そうな顔の豊川。 「そうだけど………えっ?結婚まで考えているの?」 「そうだよ?ダメか?」 「いや。ダメじゃないよ!ダメなわけない」 マコトは嬉しそうに笑ったので豊川も安心したように笑う。 反対されるかな?なんて思った。 いいや、反対するのが普通だ。 男同士なのだから。 反対しないわけがない。 特に父親は………土下座しても許してはくれないだろうな光一は………。 豊川はそう考えていた。 マコトとyoshiの話をしていたら無性に彼の声が聞きたくなった。 親子の時間を壊したくはないが声くらいはいいかな?なんて思い、携帯を手にするとタイミング良く着信が鳴る。 yoshi? 少し期待して表示された名前を見る。 堺。 えっ?堺? 約束していたっけ?不安になってしまう豊川がいた。 ◆◆◆◆◆◆◆ 小さい頃、本屋が好きだった。 本屋で日本語の本を捜す幼い自分。 側にはナオも居て、「この人が1番綺麗な顔してるね」そう言って指差した綺麗な顔をした人をyoshiは知っている。 タケル。 『タケルでいいよ』 いつだったか彼は優しい笑顔を自分に見せてくれた。 かっこいい。よりも綺麗な男性に初めて会ったのはタケルだった。 「た………ける」 頭を撫でようとした光一の手が止まる。 あー、くそ!また豊川かよ! ムッとくる。 堺との話が終わり、yoshiの様子を見に来て見れば寝言で口にするのは豊川の名前。 「こーいち。ほら、光一だ!こ・う・い・ち」 寝言でも豊川に負けているのが悔しい。 洗脳でも出来たらなあ、なんて馬鹿な考えが頭を過る。 耳元で囁いても無駄なのだけど、それでも何かしたい。 お子ちゃま思考回路の光一はそんな手しか思い浮かばない。 「俺って、ほんと、馬鹿」 ため息がでる。 「なんで………こんな馬鹿なんかな?」 堺との話で相当へこんだ。 豊川はしっかりとyoshiの事を考えてくれていて、自分は何をしていたのだろう? もがくだけで、豊川の足元にもおよばないのだ。 ため息しかでない。 あー、もう!しっかりしろよ俺!! 頭を振って落ち込む気持ちをなんとか吹き飛ばそうとする。 「なにしてんのアンタ?」 yoshiの声がして、顔を上げた。 大きい瞳が自分を見ている。 「嘉樹……よかった」 目を覚ました彼を見てホッとする光一。 「なに?さっきからため息ばっかり」 yoshiはそう言うと起き上がろうとする。 「まだ、寝てろ」 慌てて、彼の身体を押えた。 「ここ、どこ?」 yoshiは不安そうに周りを見ている。 「あ、良かった。気がついたね」 光一の後ろからあの声がした。 「あっ………あの、おれ、もしかして、発作起こしました?」 堺の姿をみて、光一と食事をしにここへ来た事を思い出したのだが途中から記憶が途切れている。 「気分は?」 堺はyoshiの側へと座り微笑む。 「だい……じょうぶです」 声が似すぎて、yoshiは俯く。 「顔色悪いね、もう少し休んでいく?豊川さんが迎に来てくれるから」 「えっ?」 驚きの声を上げたのはyoshiではなく光一。 「さっき、連絡を入れたんですよ」 ちえっ、 yoshiをもう少し独占出来たのに。 なんて子供みたいな事を考えてしまった。 「連絡したんですか?」 yoshiが不安そうな顔で堺に聞いている。 いつもなら嬉しそうな顔をするのに。 あ、もしかして俺ともう少し居たいのかな? 光一はそんな期待をしてしまうのだった。

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