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キズナ 15話
「したよ?ダメだった?」
堺の声は優しい父親を思い出させる。
「だって、仕事……、それにあまり心配かけたくない」
わがままを沢山きいて貰っているのにこれ以上、自分の事で煩わせるのが嫌だった。
不安そうなyoshiの顔。
堺は優しく微笑み、頭を撫でた。
「君は気を使い過ぎだね。大人はそれくらいなんでもないんだよ?君の方が仕事よりも何よりも大事だと思うけどなあ」
「で、でも……」
yoshiは俯き、手を口元へと持っていく。
堺はその手を握り「もう来ちゃってるよ」と優しい声で豊川の到着を知らせる。
yoshiが顔を上げると、豊川とマコトの姿があった。
たける。
そう言いたいのを飲み込むと「ごめんなさい」と謝った。
豊川はyoshiの側へと歩み寄り、姿勢を低くして彼の視線に合わせる。
「どうして、謝るんだ?」
問い詰めるような口調ではなく、堺と同じ優しい口調で聞く豊川。
「仕事……だったんでしょ?それに……俺も、仕事頼まれたのにこんな」
俯くyoshiはなんだか泣きそうで、抱き寄せたくなるのを豊川は我慢する。
「真面目だな嘉樹は……光一に爪の垢煎じて飲ませてやりたい」
冗談混じりで言うと「どう言う意味だよ!」歯向かってきたのはもちろん光一。
「お前、すぐサボろうとするだろ?」
「お、俺がいつ?」
「学生時代から楽しようってばっかりで、ちよっと熱出すと直ぐに俺はもう死ぬって騒いで」
「ちょ、ちよっと待て!!何でいま、それを言う?」
息子の前で暴露される学生時代の馬鹿な行動。
光一は焦る。
「光一って……昔っからそうなの?」
yoshiは真顔で聞いてくる。
「いや、違う!いや、違うくないけど……豊川、お前なあ!お前だって………」
豊川の過去を暴露しようとするが思い浮かばない。
「タケちゃん、優等生だったもん。黒歴史なんてないよ」
クスクス笑うマコト。
「光一って………」
yoshiはそう言いかけて少し笑った。
「何だよ?」
少し笑ったyoshiに安心したように聞く光一。
「昔から豊川さんに負けてんのな」
やはり、そう言われた。
悔しいけど、言い返せない。
「な、なんだよ!もう」
言い返せないから拗ねて見せる。
「でも、俺はアンタのそういうトコ嫌いじゃないよ?」
クスクス笑うyoshi。
嫌いじゃないよ?
その言葉に光一は凄く嬉しくて「な、生意気言うな!!」照れ隠しで文句を言う。
「な?こんな大人も居るんだから、嘉樹も多少は不真面目でもいいってコトだよ」
豊川はそう言ってyoshiの頭を撫でた。
「うん」
元気そうに笑うyoshiにホッとする豊川。
「今日はこのまま部屋で休もう。」
豊川はそう言うとyoshiをフワリと抱き上げた。
「えっ、たけ、豊川さん、待って、歩ける!」
抱き上げられyoshiは慌てる。
光一もマコトも居るし、それにあまり知らない堺も居て恥ずかしい。
「だめ、言う事聞きなさい」
怒っているわけではないが、絶対に降ろしてくれないと分かるので大人しく従うyoshi。
「ちょ、豊川!!何でお前が嘉樹を抱っこしてんだよ」
yoshiよりもうるさい光一が後ろからついて来る。
「堺さん、改めてお礼に伺いますね」
光一を無視して堺に挨拶をする豊川。
「いえ、いいんですよ。」
ニコリと微笑み、yoshiに視線を向け、
「また食べに来てね。それから少しは不真面目でもいいんだよ?」
と頭をくしゃくしゃと撫でた。
「はい。」
yoshiは照れ臭そうに笑い返す。
◆◆◆◆◆
「光一、お前、次の仕事は1人で行けるよな?」
yoshiを車に乗せた豊川は光一の方へ姿勢を向ける。
「い、行けるよ。子供じゃないんだから」
「じゃあ、私は嘉樹を連れて帰るから」
「くそ、いっつも!お前がしゃしゃり出てくんだから」
少し拗ねたような光一の態度。
気持ちは分からないでもない。
折角、息子と2人っきりで時間を過ごせていたのに。
「仕方ないだろ?具合悪くなったんだから」
「分かってるよ、そうじゃない………、ふん、もういい。仕事いく!」
何か言い返したいけれど、どんな言葉を言おうとも負けているのだから言わない方がマシだ。
豊川に背中を向けて自分の車へ向かおうと足を踏み出した瞬間「光一」とyoshiに名前を呼ばれた。
振り向くと「今日はごめん、迷惑かけて」不安そうな顔で自分を見て謝る彼が居た。
yoshiが謝る必要はない。
「いいよ。気にするな」
安心させるように笑って見せる。
「本当、ごめんなさい」
それでも不安そうな彼。
車へ行きかけた身体を反転させ、彼の元へ。
「じゃあ、また弁当作ってくれる?」
少しづつでいい、また、yoshiと接点が出来たら。それでいい。
「うん、分かった」
yoshiは光一の言葉に少し笑って答えた。
「玉子焼きな?」
「うん、いっぱい入れるから」
「マジかあ!楽しみだな」
光一は演技でも何でもなく、本当に嬉しそうに喜んだ。
光一の嬉しそうな顔でyoshiもようやく、不安そうな顔を消した。
◆◆◆◆
マコトが運転をして、豊川とyoshiが後部席。
身体が辛いだろうと無理やり膝枕をする豊川。
「着くまで寝てていいぞ?そのまま運ぶから」
膝の上にあるyoshiの頭を無でる豊川。
「………たける」
「ん?」
名前を呼ばれ、豊川はyoshiを見下ろす。
「ありがとう」
「何が?」
「色々と………たける、すき」
yoshiはそう言って微笑む。
豊川はそのままキスをしようとして、マコトの咳払いで我にかえる。
あっ、しまった………マコトがいたんだった………耳まで熱くなる。
照れる豊川をミラーで見ながらマコトは笑うのを我慢する。
ほんと、タケちゃんってメロメロだなあ。
マコトの心の呟きはもちろん、2人には聞こえない。
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