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キズナ 17話
◆◆◆◆◆
「また………ドライブとか誘ってもいいかな?」
拓也と仁田水はドライブを終え、帰る途中だった。
「いいですよ?」
「えっ?ほんとに?!」
拓也の返事に驚くように大きな声を出す仁田水。
自分で聞いてきたクセに驚く彼に拓也は思わず笑い出す。
なんか、大人なのに可愛い!
クスクス笑う拓也に何故笑われているのか解らずにキョトン。
自分の言葉に一喜一憂する大人。
大人は本当はこんな風に単純なのかも知れない。
母親が連れてくる大人は計算じみていて、良い影響を与えてくれるようには見えなかった。
母親の友人達は嫌いだ。
光一は…………懸命に親をしてくれるのが伝わっていたが、自分を通して誰かを見ていた。
自分はその誰かの代わりで、その誰かにしてあげたかった事を自分にしているように感じていた。
その誰かは………今なら分かる。
してあげれば良かったんだ。
後悔するくらいなら、してあげれば!!
大人は子供よりバカだと思う。
光一は特に。
「また、ドライブ行きたいです。」
その言葉は嘘や気を使っているわけじゃない。
興味が出てきたから。
この人をとことん知りたい。
「もちろんだよ!」
嘘のない笑顔。
本当に喜んでいる彼とまた会うのに理由とか要らない。
「ラインとかしてますか?交換しましょ?」
拓也は鞄からスマホを出す。
「えっ?いいの?」
仁田水慌ててポケットからスマホを出した。
連絡先を交換。
なんか、不思議だった。
出会った時は嫌悪感があったのに、こんなに興味を持つなんて。
仁田水の人柄のせいだ。
母親自体は最悪だけど、男の趣味は良いのかも知れない。そう思った。
◆◆◆◆
yoshiは何度も自分の携帯を確認する。
豊川から連絡ないかな?とか、自分からしてもいいかな?とか……でも、仕事中かも知れないと考えると自分からは出来ない。
「嘉くん、なんだか恋する乙女ちゃんみたいで可愛い」
yoshiの様子をずっと見ていたマコトはクスクス笑う。
「な、なにそれ?」
「ため息ついては携帯見てるでしょ?メールとかしてみたら?メールなら後から見れるし、いいんじゃない?」
マコトにそう言われ、そうかな?なんて携帯を見つめる。
携帯を見つめるyoshiは本当に恋する顔で、すごく可愛い。
マコトはコッソリとその姿を携帯のカメラで撮影するのであった。
◆◆◆◆◆
yoshiからのメールに気付いたのは事務所に着いてからだった。
『何時に帰ってくる?』
短いメールだけども、寂しさが伝わってきた。
豊川はyoshiの番号をスクロールする。
「豊川さん!」
押そうとした時に名前を呼ばれた。
拓海の声。
振り向くと、拓海と……そして、光一。
「何?お前ら一緒?」
拓海と光一を交互に見る。
「光一さんが事務所戻るなら一緒に車に乗れって」
「アキはどうした?車で行っただろう?」
豊川はキョロキョロとアキの姿を探す。
「アキの馬鹿はガソリン入れ忘れてて、慌ててガソリン入れに行ったよ」
拓海の代わりに光一が答えた。
「つーか、豊川、拓海が共演者なら早く言えよ、現場で驚いた」
「あれ?言ってなかったっけ?」
ニヤつく豊川。
「聞いてねーし、まさか拓海の父親役するとは思わなかったよ」
「よろしく、お父さん」
拓海はニコニコしながら光一の肩を叩く。
「似合ってるなあ」
豊川は2人を見ながらニヤニヤしている。
「ロケとか、県外じゃねーか!!」
光一は聞いてない!とまだ文句を言っている。
現場に行って顔合わせやら済ませた後にロケ地が遠方ばかりだと知った。
こんなに遠方ばかりだと、yoshiに会える時間が減る。
それは嫌だ。せっかく、笑ってくれるようになったのに。
弁当だって作ってくれる約束をした。
なのに!!
「光一さん、結構、海外とか遠方行ってるのに今回はなんか、やたら駄々こねますよねえ」
光一は事務所に戻る間もブチブチと文句を言っていたのだ。
聞いてないとか、豊川のアホとか……
「駄々とか言うな!!別にこねてないし」
光一はフンッと鼻を鳴らし横を向く。
その仕草は子供みたいだ。
「ロケ、私も同行するよ。一発目は九州だろ?ついでに墓参りする」
「はあ?なに、自分だけ仕事しない気か?」
光一は豊川の言葉にムッとする。
「嘉樹も連れていく。秘書だからな」
嘉樹も連れていく。
その言葉に不機嫌そうだった光一の顔が明るくなる。
なんて、分かりやすい大人なのだろうか?
豊川は笑いたいのを我慢した。
「ええ、いいなあ。じゃあ、俺もナオに頼んで一緒に来て貰おうっと!いいでしょ?社長」
拓海の言葉に豊川はいいよ。と返事をする。
光一はほんの数秒前まで、不機嫌だったのに、機嫌が治っていた。
「よーし!明日も仕事だから、大人しく家に帰るよ」
とか、普段から想像つかない事まで言い出す。
真っ直ぐ帰る事なんてしないくせに。
そんなに嘉樹と居たいのかあ………そう考えると、豊川の胸はチクリと傷む。
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