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キズナ 23話
◆◆◆◆◆
豊川と話すyoshiを気にしながら歩く光一。
さっき、内田が言った事は気にしていないようでホッとするが、寂しくもある。
幼すぎて覚えてはいないだろう。
そうだ、昔、嘉樹と数回来た事があった。
美嘉は何度もある。祖母に会わせる為。
祖母は凄く嘉樹も美嘉も可愛がってくれた。
でも、嘉樹が2歳になった頃、祖母は亡くなった。
あの頃からかなあ?
段々と美嘉と上手くいかなくなっていって、彼が4歳になる頃に別れてしまった。
もし、もしも、別れずにいたら?
この街で暮らしていたら?
自分が通った高校に通ってくれてたかな?
光一は遠くにいる、生徒達とyoshiを重ねた。
あんな風に友達と部活したり、遊んだり。
虐待なんて経験せずに育ったかも知れない。
哀しい事故に遭わなかった……自分みたいな目に遭わせてしまった事実は変えられない。
何度も何度も、後悔してきた事。
きっと、これからも後悔してしまう事。
懐かしさも入りセンチメンタルになってしまった。
校内を見お終えた頃、スタッフから連絡が入った。
「戻るよ」
豊川にそう言うと「送りますよ」とアキ。
「いや、いいよ。タクシーに乗るから。お前は豊川と嘉樹を家に連れていかなきゃだろ?」
「あ、そうか」
「光一、いっちゃうの?」
yoshiが自分の方へ来た。
「うん」
「撮影見に行く」
「わかった」
「あのさ、夕飯とかどうするの?ロケ弁?」
「たぶんな」
「そっか、じゃあ、お弁当作って持っていく」
「えっ?」
yoshiの申し出に光一はちょっと驚いた。
「約束したじゃん?」
yoshiはニコッと笑う。
ああ、そうだ。確かに約束した。
「楽しみにしてる」
光一はyoshiの頭をくしゃくしゃと撫でる。
嫌がるかな?って不安だったが、yoshiは可愛く笑って「玉子焼き入れるんだろ?」と言う。
「おう!いっぱい、頼む」
光一は嬉しくて笑顔になった。
そうだよ、落ち込むな!!
yoshiはこうやって笑ってくれるんだから。
後悔や反省しても前を見ていかなきゃ始まらない。
前に進んで償っていかなきゃ意味がない。
少しづつでも関係を取り戻していけたらいい。
光一は手を振ると元気に撮影に戻っていく。
「なんか、ヘコんでたみたいですけど、さすがyoshiくん、あっという間に元気にしましたね」
アキはヒソヒソと豊川に話す。
「そうだな」
豊川も落ち込んでいる光一に気づいていた。
落ち込んで後悔して、少しづつ父親になっていくんだろうなって思う。
光一は負けず嫌いで、寂しがり屋。
単純で、馬鹿で………でも、憎めないし放っとけない。
手を貸したくなる。
◆◆◆◆
内田に礼をいい、車に乗込んだ。
豊川の実家へと車は走っていく。
「あ、ねえ、光一とマコちゃん家近いの?幼馴染でしょ?」
車の中、yoshiは豊川に視線を向ける。
「近いよ。でも、光一の家はもうないよ。アパートだったんだけど、古くなってね」
「そうなんだあ、光一も実家あるのかな?って思ったのに」
「おばあさんの家があったんだけど、確か手放したはず」
「そっか、色々あるんだろうなあ、あいつも。なんか、さっき、元気無かったみたいだしさ」
yoshiも気付いていたようで、そう言った。
◆◆◆◆
豊川の実家に着いた。
しかも、結構立派な日本家屋。
「デカいっすね。さすが社長の実家」
マジマジと家を見ながら感動するアキ。
「それに綺麗じゃないですか?誰か住んでたりするんですか?」
「いや、誰も住んでないよ。管理を頼んでいるから、定期的に掃除をしてくれてるんだ」
豊川がそう言った通り、家の中も綺麗だった。
「お邪魔します」
yoshiとアキは豊川に挨拶をして、家へと上がる。
「電気も水も出るようにしてるから、 風呂も料理も出来るぞ」
「本当?じゃあ、俺、晩飯作る」
「期待してる」
豊川はyoshiの頭を撫でる。
「アキも食べるでしょ?」
「えっ?ええっ?!いいの?」
アキは二つ返事で食べる!!と言いたいが、この家は豊川の家だ、彼の了解なしでは食べれないだろう。なので、豊川をチラリと見た。
「夕飯が出来る時間を後で教えてやる。撮影に戻れ」
「うわあ!いいんですか!!わーい、やったあ!!はい!撮影戻ります。社長、絶対に連絡くださいね」
アキは跳びはねる勢いで喜んでいる。
こいつ………危険かもなあ。と最近、アキを見て思う。
なんせ、ラブホ近くをyoshiを連れて歩いていた前科があるし、何かとyoshiを気にしている。
友人関係でいてくれたら良いけれど、あらぬ感情を抱かれていたら………どうしてくれよう?なんて考える豊川。
じゃあ、後で。と両手を振りながらアキは撮影に戻って行った。
「タケルは撮影行かなくていいの?」
2人っきりになった部屋でyoshiは心配そうな表情を見せる。
「大丈夫だよ。それより、トイレや風呂の場所を教えるから」
豊川はyoshiの肩を抱く。
「タケルの部屋がみたい!!」
目をキラキラと輝かせて自分を見るyoshi。
ふと、顔が緩む。
どんな表情もyoshiは可愛い。
「2階だよ」
yoshiの肩を抱いたまま、2階へと上がっていく。
ギシギシと音を出す階段は昔と変わってはいない。
ここを離れて随分と経ち、yoshiと同じ年齢の頃には芸能活動をしていた。
高校を卒業するまで、光一はしょっちゅう泊まりに来ていて、彼専用の着替えは当然置いてあった。
なんせ、幼稚園からずっと、一緒だったのだから。
その息子と階段を上がり部屋へ行くなんて想像もつかなかった。
豊川の部屋は当時のまま。
ベッドシーツは洗濯して貰っていたので、直ぐにでも横にはなれる。
この部屋でyoshiを抱く………いや、抱きたい。
そう考えながら部屋のドアを閉めた。
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