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ボーダーライン 8話

「お前達、どうしたんだ?」 光一は交互に2人を見る。 「夜にご飯行くって朝言ってたでしょ?迎えに来たの」 智也が嬉しそうに答える。 ご飯に行く………? そう言えば朝、約束した。 yoshiの事で頭がいっぱいで忘れていたのだ。 「まさか、忘れてたとか言わないよね?」 勘がいい拓也に言われ、 「そんなわけないだろ?」 笑って誤魔化す光一。 「撮影もう直ぐ終るから、マコト……ごめん、面倒みてくれ」 チラリとマコトに視線を向ける。 「いいよ」 ニコッと笑うマコト。 豊川は2人を見ながら複雑だった。 つい、さっき、yoshiが楽しそうに弁当を作っていたから。 彼の事だから智也達が居ると知れば作った弁当は渡さないだろう。 きっと、また寂しくなる。 でも、この子達も食事を楽しみにしているようで、yoshiが弁当作ってる。なんて言えない。 1つを立てようとすると、1つは倒れてしまう。そんなジレンマを感じた。 ◆◆◆◆◆ 「ところで、光一さんは?」 そう拓海に聞くナオ。 「光一さん?さっき、撮り直しに現場に呼ばれたけど」 「そっか、じゃあ、おいで案内してあげる」 ナオはyoshiに手招きをする。 拓海も一緒に歩き出す。 暫く歩くと、 「嘉樹兄ちゃん!!」 と現場近くで声がした。 聞いたことがある声。 「智也くん」 正面から嬉しそうに智也が走ってきた。 「えっ?なんでいるの?」 yoshiは驚いたように智也に声をかける。 「お父さんと拓也兄ちゃんと一緒に来てるんだよ。嘉樹兄ちゃん、また会いたかったの!」 智也は無邪気にyoshiに抱きつく。 「拓也も一緒?」 「うん、ほら、あそこ」 智也が指さす方向に拓也がいた。 拓也の姿をみて、そっか……やっぱ、アイツの息子かあ……と思ったと同時に心がざわついた。 どうしてだろう?ここに居てはいけない気がして…… 「じゃあ、お兄ちゃんによろしくね」 と立ち去ろうとした。 「えーー、嘉樹兄ちゃん行っちゃうの?後からご飯食べに行くの一緒に行こうよ」 智也はyoshiの服を引っ張る。 「それはダメだよ、だって、家族の輪に入っちゃ悪いし……」 ああ、そっか、差し入れなんて必要なかったな。 拓也もいて、智也も居る。 家族の輪には自分は入れない。入ってはいけない。 「どうして?僕は嘉樹兄ちゃん大好きだもん。一緒にいきたい」 無邪気な智也に心がチクチクと痛む。 どうしてなのか分からない。 「ごめんね、用事あるんだ……だから、本当にごめんね」 「分かった……今度遊んで」 手をギュッと握られた。 その手は小さくて温かい。 「うん、いいよ」 「ほんと?じゃあ、約束!」 智也は嬉しそうに笑う。 「うん、約束」 そう言ってグラリと目眩がした。 横にいたナオがよろけるyoshiを抱きとめる。 「大丈夫?誰か呼んでくる」 慌てる智也。 「大丈夫だよ、ちょっと何かに躓いただけだから」 「でも」 それでも、不安そうな智也を静止したのはナオ。 「大丈夫だから、智也くん、ほら君のお兄ちゃんが捜してるみたいだよ?」 ナオはyoshiの身体を支えながら智也を向こうへ行くように促す。 目眩がした時に一瞬、知らない記憶が過ぎった。 知らない………いつの記憶かも分からない。 拓也と智也を見た時に知らない幼い子供と重なった。 あの子供は誰だろう? そして、どうして胸が締め付けられるくらいに苦しいのだろう? 「yoshi、大丈夫?」 ナオの声で我に返る。 「顔色悪いぞ?社長呼んでやるよ」 拓海はスマホを取り出す。 普段のyoshiなら呼ばないで!と言っただろう。 でも、今は凄く豊川に会いたい。 彼にギュッと抱きしめられたい。 迷惑かけるかも知れないけれど、それでも今は自分を抱きしめて欲しい。 そしたらきっと、哀しくないから。 ◆◆◆◆◆ 光一が撮影に戻り、拓也達と供にその場に残された。 拓也が自分を意識しているのが丸わかりで、今はこの場に居ない方がいいのかも知れないと豊川はその場を離れる。 yoshiはまだナオの所に居るのだろうか? 居てくれた方が助かる。 そう考えながら歩いていると拓海から着信があり。 でてみると、yoshiが気分悪そうだから来て欲しいだった。 慌てて言われた場所へと急ぐ。 ◆◆◆◆ 豊川が離れてくれてホッとした拓也。 急に彼の姿があって一瞬ビビってしまった。 でも、何も聞こうとはしないような態度。 いつも通りにしてくれているように感じて、目を合わせないようにした自分の態度を少し反省した。 話しをしてみたくても、上手く話せない。 どう話して良いか分からない。 誰か大人に相談しないと子供の自分だけでは支えきれないから。 拓也は撮影をする光一を見つめる。 いつか、彼にも真実を話さなければならない。 そうなった時、どんな表情をするだろうか? 裏切られたとか、他人だとか……… そんな風に言われたり、無視されたら……… 好きだった分、傷つくだろうか? いや、きっと、彼のうける傷の方が深い。 生まれてきてしまってごめんなさい。 心の中、呟く。

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