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ボーダーライン 10話
◆◆◆◆◆◆
「洗い物僕がします」
yoshiと拓海が2階へ上がってしまうとナオは容器を手にする。
「いいよ、君と拓海はお客だから」
「いえ、これくらいさせてください」
ナオは豊川の横を通り過ぎるとシンクへ容器を置く。
「じゃあ、お願いしようかな?」
ナオの申し出を受け入れ笑顔でそう言う豊川は洗剤とスポンジを渡す。
「yoshi、元気なかったですね。豊川さんも気付いてたでしょ?」
ナオは容器を洗いながらそう言う。
「ナオと拓海が居てくれて良かった。気が紛れているみたいで」
「ですね。拓海も多分気付いてる。だから、いつもより沢山話してると思う」
「拓海、優しい子だね。初対面は最悪だったのに」
豊川は彼らの出会いを思い出しながら少し笑った。
「僕のせいです……僕が拓海を不安にさせていたから……あの子は元々優しい子なんです」
「うん、それは見てて分かるよ。良いお兄さんが出来て嘉樹も嬉しいだろう……今夜は泊まってほしいんだけど?」
「えっ?邪魔じゃないですか?」
「邪魔なんかじゃないよ?ナオは嘉樹の大事な家族だろ?だったら私にとってもそうだよ」
豊川は優しく微笑む。
「………豊川さんって、顔立ち綺麗ですよね。僕、光一さんがバンドやってた時代のDVDとか写真とか見てて、1番カッコイイなって思ってました」
「……はっ?突然どうした?」
ナオの言葉にどういう態度を取って良いか分からず苦笑いする豊川。
「子供だったけど、男性で綺麗だなって思ったのは豊川さんでした。yoshiが本買ってた時、僕も買うのを手伝ってましたけど、純粋に豊川さんのファンだったからなんですよ」
ナオはそう言って照れ笑いをする。
「だから、目の前に豊川さんが居るのが不思議です」
「………これは素直にありがとうって言うべきかな?」
「……そうですね」
ナオはそう言って笑う。
「ありがとう。ナオも嘉樹もこんなオジサンを綺麗とかカッコイイとか言ってくれて」
「真実ですもん。………豊川さんは光一さんにyoshiと付き合ってるっていつかは言うんでしょ?」
豊川はその質問に少し悩んでいるような表情をして、
「言わなきゃいけないのは分かっている。私をきっと責めるだろう。それは覚悟しているけど、自分の息子が男に抱かれているって知ったら父親ってどう思うのかな?って」
「………その悩みはつきないですよね。僕には両親が居ないし、兄は僕が同性愛者っては知ってましたし。理解もしてくれてた、でも、親はどうかな?ってたまに考えます。友達にも同性愛者はいますし、理解してくれる親って意外と少ないですからね」
「……でも、だからって愛し合っているのを伝えない理由にはならないよね」
豊川はそう言って2階を見上げる。
自分が責られるのは構わない。
でも、理解されないかも知れないのは怖い。
理解して貰えると思うのは諦めなければいけないのだろうか?
幼い頃からの付き合いであっても自分の息子に手を出したと知ったら光一はきっと、許してくれない。
それは凄く怖い事だけれど、もう嘉樹を手放せないし、反対されても愛する事を止める事はしない。
誰かに反対されて諦めるくらいじゃそれは相手を本気で好きって事ではないだろう。
でも、思うのは自分はどんなに罵られても構わないが嘉樹がそれで辛くなるのは耐えられないかも知れないって事。
彼を支えられるくらいにもっと強くなりたいと思う。
光一を説得出来るくらいに。
何も恐れる事がないくらいに。
こんな大人になっても怖い事が出来るなんて思いもよらなかった。
そして、こんなにも誰かを好きになるなんて思わなかった。
愛しい存在は自分を強くしてくれる。それが凄く大事だと改めて思う。
◆◆◆◆◆
「お前やっぱ、似合うなあ~。童顔だから高校生そのものだぞ?」
制服姿のyoshiを見た拓海の感想。
「拓海だって高校生みたいだけど?」
幼く見られムッとして言い返すyoshi。
自分が言われて嫌な事は他人も嫌だろうと思っていたのに拓海は、
「マジ?」
と嬉しそうな顔をする。
「何で嬉しそうなの?」
「だって、若く見られるってイイ事じゃん?社長も嘉樹のその姿みたらものすごーく萌えるんだろうなあ。そりゃ、エッチも激しくなるだろうよ!」
拓海はニヤニヤしながらyoshiを見る。
「拓海、何か変態っぽくて怖いんだけど?」
「お前の首筋みたら色んな想像出来てさ」
首筋を指さされ、yoshiは慌てて視線が注がれる場所を手で隠した。
「ついてねーよ。」
ニヤリと笑う拓海。
yoshiはからかわれたとムウうう!!!と口を尖らせて拓海を睨む。
「お前、本当可愛いよな。嘘つけないって言うか、素直っていうか……」
拓海はyoshiの頭を軽く撫でる。
「社長もそんな所が好きなんだろうな………ナオもさ……今なら分かるんだ。お前を優先させてたナオの気持ち。お前ほっとけない」
優しい顔で微笑む拓海。
子供扱いしないで!って頭を撫でる手を振り払う事出来るけれど、それは出来ない。
「本当、色々反省してるよ。お前をちょっとイジメた事とか……ナオをお前にとられちゃうんじゃないかって不安でどうにかかりそうだった」
「………拓海、ナオは拓海を好きだよ?」
不安そうな表情をする拓海を心配して、そう言葉にする。
「うん、知ってる」
「お、俺だって拓海嫌いだったもん。ナオをとられちゃったから……俺にはもうナオしか居ないって思ってて………」
「ごめんな。大事なナオとっちゃって……でも、絶対にナオを不幸にはしない!約束する」
拓海の手は優しく頭を撫でる。
その手はナオや義父と同じくらいに温かい。
「うん」
可愛く微笑むyoshi。
「お前って……ほんと、あざとい」
拓海は可愛く笑うyoshiを見てまた、そう言った。
「だから、あざといって何?」
「もう、調べろよ!」
「面倒くさいもん!!」
「お前な、わかんない言葉は調べないと日本語上手くならないぞ?」
「余計なお世話!」
可愛く笑っていたyoshiが今度はふて腐れた表情を見せる。
コロコロ表情を変えるyoshiを見て、拓海は嬉しくなる。
心を許してくれたのだと感じるから。
「拓海って俺を子供扱いするよね?」
「年下だからな。それに弟欲しかったって言っただろ?」
「拓海って1人っ子?」
「兄がいるよ」
「えっ?そうなの?どんな感じ?似てる?」
「さあ?良くわかんない。兄とは結構年離れててさ、あまり遊んだ記憶ないし、優秀だから親父のお気に入りだった……俺はさ、勉強苦手で、よくドラマであるじゃん?兄は優秀で弟はダメってやつ。そのまんまな家庭。居心地悪くて良く家出してて、そん時にスカウトされてさ、モデルやりだして、でも、親は学校くらいでろ!って無理やり留学させられて、まあ、色々と波乱万丈。そんな時にナオに出会ったんだ。ナオは………俺の癒やしだな」
拓海はそう言って微笑むと、
「下降りようか?ナオ達待ってるから」
とyoshiの手を引っ張った。
「俺、拓海好きだよ」
引っ張られながらに言うyoshiに振り返る拓海。
「あ、変な意味じゃないから!!人間として好きっていうか、その、ナオの恋人なら俺にとっても家族でしょ?だから」
驚いた顔をして拓海が振り向くものだからyoshiは慌てて付け加えた。
「ごめん、日本語下手で」
照れたように笑ってみせるyoshi。
「うん、俺もお前好きだよ。すげえ、素直で可愛いと思う」
拓海もそう言って微笑む。
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