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ボーダーライン 11話

2階から降りると、豊川とナオが2人を見て、微笑む。 可愛らしい。そんな意味で。 「どう?似合う?俺はアウトかも知れないけど、嘉樹は似合うと思う」 拓海はyoshiをナオの前に出す。 「拓海も似合ってるよ?」 クスクス笑って、次に目の前のyoshiに手を伸ばす。 「日本にいたら、制服姿見られたかな?兄さんもきっと見たかっただろうね」 ナオの手がyoshiの頬に触れた。 小さかった男の子が成人している。 でも、まだ、小さかった頃の面影を残している。 「………いま、見たじゃん?」 「そうだね。似合うよ。ほんと、大きくなって」 「………なんか、年寄りみたいだよ?ナオと俺ってそんなに変わらないじゃん!」 「それでもさ、小さい頃から見てきてるから、どうしてもそう思っちゃうんだよ」 「そういうもん?」 「そういうもんだよ」 ナオはそう言って頭を撫でる。 「いつまで、いちゃつく気?互いの恋人が見てる中で!!」 拗ねたような拓海の言葉にyoshiから離れて笑い出すナオ。 「ごめん、そうだね。」 ナオはyoshiを豊川の側へと背中を押す。 そうやって、ずっと大事にしてきた宝物を他人に渡すのにまだ、心がチクリと痛むけれど、前程ではない。 自分には拓海がいるし、yoshiには豊川が居る。 彼ならいいかな?って思えるようになった。 彼がもっと嫌な奴なら良かったのにって思った事もあった。そしたら、堂々とyoshiを奪えた。でも、それをやらなくて良かったと思う。 今では豊川で良かったと……… やっと、心に余裕が出来てきた。 顔で笑って見せて、心の中で自分はもっと強いから平気だと…… 嘉樹を取られても平気だと言い聞かせてきた。 拓海も大事だけど、どうしても嘉樹は諦めきれなくて、自分の優柔不断さに凹んだ。 拓海を泣かせたくないくせに、大事にしたいくせに、心のどこかにいつも、嘉樹が居て、どうしようもなかった。 こんな自分でも拓海は愛してくれるだろうか? 拓海を愛して良いのだろうか? そればかりだった。 制服姿をみて、ああ、兄に見せたかったなって、まるで親族みたいな気持ちになって、やっと、嘉樹から離れられるかな?って思えた。 「ナオ」 拓海が両手を回してきた。 まるで心を読んだかのように……… 「俺はいつもナオが好きだからな!」 そう言って自分を見つめる拓海。 その表情は昔のヤキモチ妬きの彼の顔じゃなくて、心に誰がいても、愛しているから!! そう、言っているようだった。 「うん………僕も」 そう言って髪にキスをした。 「ん、もう!!いちゃつくなら2階行きなよ!!目のやり場に困る」 抱き合う2人を一応、気遣っているつもりのyoshi。 「風呂入るならどうぞ?」 豊川も気を使ってくれている。 「主より先は、ちょっと」 ナオは遠慮するようにそう答えた。 「2階にシャワー室あるよ?シャワーだけで良かったら使って、タオルもちゃんとあるし」 「えっ?すご!!2階にもあるの?さすが社長の実家!!」 拓海は目を丸くして豊川を見る。 「凄くないよ………良かったら使いなさい。部屋は左側を好きに使っていいから」 「ほんと?じゃあ、遠慮なく使わせて貰おうかな?」 拓海はナオの上着をツンツンと引っ張る。 「じゃあ、遠慮なく」 ナオは軽く会釈をして、拓海と2階へ上がって行った。 「さて、お風呂入るか?それ、脱がすのもったいないけど」 豊川はそう言ってyoshiの頭を撫でた。 ◆◆◆◆◆ 「ご飯美味しかったね」 智也は嬉しそうに光一の腕に絡んでくる。 その小さな手を握ると、嬉しそうな顔を見せて、ギュッと光一の手を握ってきた。 「眠くないか?」 「うん、大丈夫だよ?お昼、暇だったから寝てたもん」 「そうか……拓也は?」 マコトの横を歩く拓也を見る。 「あのね、今、何時だと思ってんの?まだ9時過ぎだぜ?お子ちゃまじゃないんだから」 光一から見たら充分、お子ちゃまなのだが、それを言ったら拗ねて口を聞いてくれなくなりそうで、言葉にはしなかった。 「マコトもありがとうな付き合ってくれて」 「ううん、いいよ?こっちこそ、家族水入らずにお邪魔しちゃってさ」 「えー、マコちゃん、家族だよ?ねえ、お父さん」 無邪気に笑う智也。 「あ、そうだ!!本当はね、嘉樹兄ちゃんもね、誘ったんだ、でも、用事があるって」 「えっ?」 驚いた声が重なる。光一と拓也の声。 「嘉樹兄ちゃんも来てくれたら良かったのになあ…でも、遊んでくれるって約束したんだあ」 ニコニコ笑う智也。 その横で光一は心がチクリと傷んだ。 自分ばかりが家族で楽しい時間を過ごしている。 この時間、彼は何をしているのだろうか? 豊川が一緒? 彼が一緒なら安心だけれど、同時に嫉妬してしまう。 いつも、yoshiを独り占めしているようで、面白くない。 子供みたいだけれど、そう思ってしまう。 「そうか、いつ、遊ぶんだ?」 平常心を装いながらに聞く。 「んーとね、明日!!」 「明日?本当に?」 「うん、明日」 「そうか、迷惑かけないようにしなさい」 「うん、大丈夫だよ。拓也兄ちゃんも一緒に遊ぶ?暇でしょ?」 智也に話を振られ、少し戸惑う拓也。 「何して遊ぶんだよ?子供の遊びには付き合わないからな!」 「え~、けち!!」 頬を膨らませて、拗ねる智也。 「マコちゃんは?」 「いいよ。明日は何もないから」 「ほんと?やったあ~!」 今まで拗ねていた智也はあっという間にご機嫌に。 「約束!」 マコトと指切りげんまんで約束をする。 そんな智也を見ながら光一はyoshiの事を考えていた。 ちゃんとご飯食べているかな? 豊川が食べさせているだろうけど…… 智也が食事に誘ったって聞いた時は心拍数があがった。 来てくれないだろうけれど、一緒に食べたいって思った。 思えばyoshiとはどこかへ食べに連れて行った事あるだろうか? 忙しさを理由にほとんど、構ってあげられなかった。 食事だけでも、大喜びする智也を見る度に胸が罪悪感でチクチクとする。 yoshiも喜んでくれただろうか? 手を繋いで歩いてくれただろうか? もう戻れない時間ばかりを悔やんでしまう。 これからの先の未来を見なきゃダメなのに。 彼を守ってあげたいのに、実際は血が繋がらない他人に任せている。 ほんと、俺って馬鹿だよなあ~。 智也の手をギュッと握って自分を誤魔化す。 ◆◆◆◆◆ 「身内がいちゃつくの見るのって照れるね」 豊川のひざの上に抱かれて湯船に浸かるyoshi。 「2階で続きやってるかもな」 「ほんと、そう!!ナオのあんなデレデレした顔、初めてみた」 「ヤキモチかな?」 「何?ブラコンっていいたいの?」 「嘉樹の大事なお兄ちゃんだもんな。いいよ、ヤキモチくらい妬いても」 「う~、なんだよ、その言い方」 恥ずかしそうに豊川の方を振り向く。 「可愛いなって思っただけ」 豊川はyoshiの髪にキスを落とす。 「俺は………別にナオ、取られたとか……拓海の事好きだし、そりゃ初めは嫌な奴だったけど、今は良い奴って知ってるし、好きだし、でも、なんか……」 yoshiは豊川と向き合うように身体を動かして、彼の胸に顔を擦り寄せると、 「ちょっと寂しいだけだもん」 そう言った。 豊川はyoshiの身体をギュッと抱きしめる。 「私がいるよ。嘉樹には」 「うん、知ってる」 yoshiは安心したように目を閉じた。

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