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子猫 8話
「あなたが一緒に居てくれて良かった」
窮地に陥りそうな光一の助け舟を出したのは豊川。
「若いのにしっかりしている。私達はスカウトの延長で話をしているのではない。ただ、純粋に様子が気になったからです。記事には苦労していると書いてあった。…苦労しているなら援助を申し出たい、そう思ったのです。金で解決するつもりかとか言われたら終わりですが」
豊川は冷静な口調で話す。
光一のような下手な芝居は一切入れない。
「援助ですか?確かにそれだけ聞いたら金で誤魔化ように聞こえますね」
ナオは正直に話す豊川に微笑んだ。
「苦労…させてるつもりはないのですが…すみません、何か敵意剥き出しで」
「いえ、警戒するのも無理はないです。いきなり訪ねて来ましたし、嘉樹くんには失礼な事もしていますし」
豊川はそう言うとナオに頭を下げる。
それを見ていた光一も慌てて頭を下げた。
豊川には嘘も上辺も見えない。
頭を下げるの態度にも心がこもっているように見えたナオは警戒心を解いた。
「頭、上げて下さい。」
穏やかな口調に戻った直に光一はホッとする。
いつも冷静な豊川のフォローに助けられるから、頭が上がらないのだ。
「では、さっきのyoshiとの会話の説明をします。yoshiがあんなに動揺したのは事故のせいで記憶が曖昧なんです」
事故?
光一は美嘉の事故の事だと、記事の内容を思い出す。
「兄と義姉が事故に遭った時にyoshiも一緒だったんです。彼も重傷を負って、目が覚めた時に事故のショックか…もしかしたら兄達を亡くしたショックからかも知れませんが過去の記憶が抜けていました。…でも、徐々に思い出して来たのですが」
ナオの話は光一に衝撃を与えた。
美嘉の死も、息子の記憶障害も、知らなかっただけじゃ済まない。
アキのいう通りだ。
自分は冷たい人間だ。
「過去の話をしている内に思い出したりするのですが、先程のマコトさんの事は思い出したでしょ?」
ナオはそう言ってマコトを見た。
「でも、いくら教えても兄を本当の父親だと思ってて、光一さんの事は一切記憶にないのです」
記憶にない?
光一はさっきのyoshiの態度を思い出す。
自分を知らないと言った。
親はいないと言った。
あれは、からかったのではないのだ。
「それは、光一と別れたのが幼かったからでは?」
珍しく動揺している光一の代わりに豊川は質問をした。
「僕が兄さんからyoshiと義姉を紹介された時、彼は5歳でしたけど、光一さんを父親だと認識していましたし、兄の事もすぐにはお父さんと呼んでいませんでした」
「でも、光一の記憶はなく、あなたのお兄さんを実の親だと思っている?」
豊川の問い掛けにナオは頷く。
「yoshiがマコトさんを思い出したので、きっと光一さんの事もその内」
ナオの説明は正直、光一の頭にはあまり入って来なかった。
自分が忘れられている。
当たり前と言えば当たり前なのだけれど、ショックを受けたのは事実。
マコトはyoshiを凄く可愛がっていた。
楽屋に来たyoshiと遊ぶのはマコトの仕事。
幼稚園に行きだした彼の父親参観にも行ったのはマコト。
全て忙しいを理由にした。
父親が欲しい時期に父親をやらなかった自分への罰が、自分を忘れられる事。
自業自得の大馬鹿野郎。
***********
話を早々に切り上げて帰宅する車内は静かだった。
光一に気を使っているのかも知れない。
「豊川のおかげで助かったよ」
重い空気を初めに壊したのは光一。
後部座席、隣に座る豊川に明るく気丈に話かける。
「大根役者め!お前は俳優にならなくて正解だな」
「やっぱ、バレてた?」
「その場しのぎの嘘は誰でも見抜くし、藤城直は若いけれどお前より冷静で頭がいい」
ナオの事を誉められ、光一はふてくされる。
「お前、嘉樹くんをどうするつもりだ?」
「側に置く」
「それは父親としてか?それともプロデューサーとしてか?」
「後方だな」
「コウちゃん最低」
光一が返事をするとすぐにマコトが怒ったように叫んだ。
「コウちゃんはショックじゃないの?美嘉さんが亡くなった事やyoshiくんが辛い目にあってるのに!自分が忘れられた事とかショックじゃないの?」
助手席のマコトは振り向き、身を乗り出して光一を睨んでいる。
「あいつの才能、マコトは知らないだろ?父親だって覚えてないんだから、近付くのはプロデューサーとしてしかないだろ?一緒に居れば思い出してくれるかも知れない」
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