23 / 275

やきもち 4話

「ちょっと見学いい?」 撮影スタジオに着くとドラマの監督に豊川は歩み寄る。 「あれ?珍しいねトヨちゃん…って、新人くん?」  ドラマの監督は豊川の後ろに居るyoshiをジロジロと見ている。 「綺麗な子だね。高校生くらい?俳優希望かなんか?」 豊川に質問攻めにするが、「まあ、そんなとこ」とごまかす。 「ナオさん?」 入口近くで誰かが声をかけてきた。  「拓海」  ナオは声をかけてきた男性に微笑みかけた。  「嘘、なんで?まじ?見学しに来てくれたんだ!」  ナオに声をかけて来たのは工藤拓海。 ドラマの主役を演じている人気俳優。もちろん、yoshiは彼の名前も顔も知っている。テレビで良く見かけるから。 凄く親しそうにナオに話かける拓海にyoshiは驚いていた。  知り合い?  月9ドラマを見ていたのは彼が出ているからだと、今知った。  「偶然なんだよ。迷子を連れて来たら、このスタジオでさ、中案内してくれるって言われたから、ああ、拓海が居るなあって」  「迷子?」  拓海はきょとんとした。 「新崎光一さんの息子さんを偶然保護したんだよ」  「あ、だから社長と一緒なんだ」  拓海は豊川に軽く会釈する。  「君達は知り合いなのかい?」  豊川は凄く仲良さそうな二人を交互に見る。  「アメリカ住んでた時からの知り合いですよ」 拓海はそう言って微笑む。 アメリカに居た?  そう言えば、帰国子女だとテレビのインタビューで話していたのをyoshiは思い出した。  でも、アメリカに住んで居た時は拓海の存在なんて知らなかった。  日本に来て、やたら拓海が出ている番組を見ていた気がするが、それは彼が露出が高いとかの前にナオが選んで見ていたのだ。  偶然だと思っていた。  「で、光一氏の迷子の息子ちゃんと、この可愛い子ちゃんは社長の所の新人?」 拓海はyoshiと智也を交互に見る。  「あ、嘉樹だよ。ずっと紹介したかった」 ナオがyoshiを紹介すると拓海は、  「ああ、この可愛い子ちゃんが嘉樹君かあ。」 微笑みかける。  でも、その笑顔は口角が上がっているだけで目は笑っていない。  鋭い目。  いや、yoshiを探るような目。  友好的ではないと雰囲気で分かる。  「ナオ、知り合いだったんだ?」 拓海からすぐに目をそらして聞いた。  知り合いとか一度も聞いた事が無かった。  「知り合い以上だよ」 拓海はyoshiに握手をしようと手を出した。  拒みたい気持ちがあったが、ナオの知り合いだから…と拓海の手を掴んだ。 瞬間、  力を入れられた。  痛みが手の平に走るが声には出さずに我慢した。 「よろしくね嘉樹くん」 yoshiに微笑むと手を離した。  少し手がジンジンとする。  「見学して行ってね。」 yoshiに愛想笑いを振り撒き、ナオを連れて行ってしまった。  「拓海と知り合いだったんだね」 一人取り残されたyoshiに豊川は話かける。  「知らない、トイレどこですか?」 拓海とナオが知り合いだなんて知らない。 yoshiは面倒くさそうに返事を返し、豊川が教えてトイレに向かった。  きつく握られた手がジンジンする。  拓海が向けてきたのは好意とかじゃなく、あからさまな敵意。  きっと恋人だ。  ナオが同性愛者だとyoshiも知っている事。  アメリカに居た時もナオの恋人は男性だった。  人が人を愛する行為を否定はしないし、嫌悪感もない。 自分の中にも似たような感情があるかも知れないから。 ナオの恋人はyoshiにも優しかったし、いつも年上と付き合っていた。  日本に来て、電話でよく話していた相手は今なら拓海だと分かる。 あんなに敵意を向けられたのは初めてだ。 しかも自分と歳が近い恋人なんて初めてだった。 嫌な感情がyoshiの体内を支配する。  アイツ、嫌いだ! なんで、あんな奴と付き合っているのだろう?  トイレの手洗い場で握手された手を冷やす。 拓海と一緒に撮影現場へと行ってしまったナオは一度も振り向く事はなく、拓海を見ていた。  優しい目で拓海に微笑む。  恋人だから当たり前の事だろうけど、凄く嫌だった。  普段ならいつもyoshiを気にしてくれて、目が届く場所からyoshiが消えたら慌てて捜すほどに過保護で。  今朝まで、凄く過保護だった。 嫌い!嫌いだ!  心で何度も叫ぶ自分の顔はまるで捨てられた猫みたいだった。  yoshiは自分にこんな感情があるなんて初めて知ったのだ。 馬鹿みたいだヤキモチなんて!  あんな奴にヤキモチやくなんて…  俺、ガキなんだな。  yoshiは水道の水を止めてため息をついた。

ともだちにシェアしよう!