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そして、嫉妬

トイレから出た瞬間に、 「ここ、男子トイレよ」 と女性の声がして、声の主を見た。 ドラマで見た顔。  喜多川莉奈がyoshiを見て微笑む。 でも、リナが口にした言葉、ここ、男子トイレよ。にどんな意味が? きょとんとするyoshiに、  「あっ、ごめんなさい。男の子なのね」 と謝る。  「はい?」 さらに意味が分からない。  「ごめんね。凄く可愛い顔してるから女の子かと思ったの。で、トイレ間違えたのかな?って勝手に誤解したの」 リナは恥ずかしそうに笑った。  女の子…って、  「男の子でもなく成人してるけど?」 「嘘、やだ!中、いや、高校生かなって?うわー、ごめんなさい!かなり失礼な事言うたごた」 リナの慌てふためいて発する言葉の最後辺りが上手く聞き取れなかった。 「ごた?」  聞き取れた言葉が間違いではないか、聞き返す。 リナは真っ赤になって、 「ごめんなさい、私興奮すると博多弁になるのよ。よく今みたいに聞き返される」 と答えた。  凄く恥ずかしそうにしている彼女はテレビで見るよりは幼く感じた。  さっきの拓海の相手役を演じている彼女はドラマの中では大人びて、色気を感じていたのに。  目の前の彼女は凄く可愛い。  「博多弁?言葉違うの?俺、あまり日本語上手くないから、そのせいかと思った」 「あれ?日本人じゃないの?」 リナはマジマジとyoshiを見つめる。  「日本人だけど、ずっとアメリカに居たから」  「そうなの?カッコイイね。帰国子女かあ~、あっ、方言って分かる?訛りって云えば分かるかな?ほら、英語でもイギリス人が話す英語とオーストラリア人が話す英語って発音が違ったりするじゃない?それよ」  リナは解りやすく説明をしてくれた。  それだけで彼女が気さくで優しいと分かる。  「ああ、そう言う事」 yoshiはリナに笑いかけた。  うおっ!  リナは思わず叫びそうになった。  笑顔萌やん。ばり可愛かあぁぁーっ  心で博多弁で叫ぶくらいにyoshiの笑顔は可愛い。 「あ、やばい。撮影」  リナは慌てて時計を見た。  「撮影…」  拓海が居る撮影現場に戻るのは嫌だ。でも、ナオを置いて帰れない。 「もしかして、戻れなくなった?広いもんねココ。」  急に不安そうに黙り込むyoshiを心配そうにリナは言う。  「大丈夫、戻れるから。それより時間…」  「あっ」  リナは短く声を上げると、「じゃあ、また」 手を振り急いで戻って行った。 「リナ、遅いよ」 彼女のマネージャーをしている男性がハラハラしながら待っていた。 リナは舌をペロりと出して笑ってごまかした。 「あれ?拓海と話してる人、誰?」 少し離れた場所で拓海が親しそうに誰かと話している。 「ああ、豊川社長が連れて来た人だよ」 「へえ~結構カッコイイじゃん」 リナは男性を見つめる。 「後一人連れて来てるんだけどさ、トイレ行くって行ったまま戻らないって豊川社長が心配してる」 「えっ?」 リナの頭にさっき会ったyoshiが過ぎる。 「女の子みたいに可愛い顔した子?」 リナは見たままの感想を言った。そして、名前聞いて無かった事を思い出した。 彼を見た瞬間に見とれた自分が居た。 誰かに似ていて、凄く引き込まれる感じがして、思わず声をかけてしまったのだ。 「そう、そんな感じの!あれ?リナ、どうして知ってるの?」 マネージャーは不思議そうな顔をする。 「さっき、トイレで…、てっ、やっぱり戻れなかったんだ。置いて来なきゃ良かった」 後悔した。でも、戻る時間はない。きっと、社長が見つけてくれるはず。そう願った。 **********  yoshiは撮影スタジオ近くの自販機の横の長椅子に座っていた。 トイレに行くと言ってから15分以上も経っている。 自分でも子供みたいだと思う。もしかしたら、自分が居なくなった事に気付いてナオが慌てているんじゃないか…とか、思っているから。 でも、ナオからの着信は未だに無い。 きっと、拓海に夢中で居なくなった自分に気付かない。 胸が急に痛くなる。 きっと、恋人には敵わない。 ナオが急に日本に行くと言ったのも拓海の為。きっと、そうだ!! ナオとの平穏が崩れる気がしてyoshiは胸が苦しくなった。 俺にはナオしか居ないのに。 自販機に寄りかかっていると、 「嘉樹くん居た」 息を切らした豊川がyoshiの前に立った。 顔を上げたyoshiを安心したように微笑む豊川。

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