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そして、嫉妬 3話

「yoshiくん、顔色悪いよ。こっちおいで」 後ろから豊川の声がして腕を掴まれた。 びっくりして振り向くと豊川は優しく微笑む。  そして、椅子がある場所へと連れて行ってくれた。 「お兄ちゃん具合悪いの?」 椅子に座ったyoshiを心配そうに智也は覗き込む。 「大丈夫だよ」 ニッコリと笑い返す。  「水を…」 と豊川がスタッフに声を掛けようとすると水が入ったペットボトルが差し出された。  「はい。どうぞ」 そう言って微笑むのはリナ。  yoshiもリナに気付き頭を下げる。 「良かった見つかったのね。ごめんなさい置いて行って」 リナが手にした水はyoshiの手に渡る。  「ありがとうございます」 yoshiは水の御礼を言ってリナにまた頭を下げる。 「知り合い?」 豊川は意外そうな顔をした。 「さっきトイレで…」 yoshiそう言うと受け取ったペットボトルのキャップを開ける。 「社長のとこの新人さんだったんですね。私、トイレで会った時に彼の事、女の子かと思って男子トイレに間違って入ったと勘違いしたんです」 リナは照れたように笑う。  「ああ、確かにyoshiくんは一瞬女の子かと思うからね」 「yoshi?」 豊川の言葉に反応して名前だけを繰り返したリナに名乗っていなかったとyoshiは思い出した。  まあ、トイレの前で自己紹介も変な話だけどね。と思いながら、  「藤城嘉樹って云うんだ。yoshiで良いけど」 と挨拶をした。 「藤城?あれ?拓海と話してる人も同じ苗字だよね?兄弟?」 リナはナオをちらりと見た。  「ナオと話た?」 「うん、拓海に紹介された」 「なんて?」 「昔、家庭教師して貰ってた人だって」 家庭教師? そういえば…家庭教師のバイトをしていた事があるとyoshiは思い出した。 それが出会い? 「拓海があんなに懐く人を初めて見たなあ。彼、凄い人見知りなんだよ」 初めて直に会うリナさえも仲の良さが普通ではないと気付いているようで、どれだけ二人の仲が良いか分かってしまう。  「あ、私名乗って無かったね。私…」 「リナちゃんだよね~僕のお兄ちゃんがいつもドラマ見てるよ」 元気な声が下から聞こえ、リナは智也に微笑む。 「うん、そうだよ。ありがとう~お兄ちゃんドラマ見てるんだ」 リナは智也に話やすいようにしゃがみ込む。 「見てるよ。あとね、優ちゃんが1番好きなんだって」 無邪気な子供の言葉に豊川とyoshiは固まる。  優ちゃんが1番。  よって、リナは2番目という順位が決まった。  リナは笑い出すと、  「うん、優ちゃん可愛いもんね。私も好きだよ」 智也の頭を撫でる。 「ねえ、名前は?」 「新崎智也」 その名前にリナはピクリと反応するがすぐに笑顔に戻り、  「よろしくね智也くん」 と言った。 豊川はリナが一瞬動揺した事に気付いた。  動揺しないのは有り得ないけれど。  なんせ、別れたとはいえ不倫相手の息子が目の前に居る。  しかも二人も。  yoshiの事はまだ知らないだろうが、いつかは知る事になる。 「リナちゃんサインして!お兄ちゃんに自慢するんだ」 智也は無邪気に笑う。  「いいよ。でも書くもの無いなあ」 「僕、借りてくる」 智也は走り出した。  「えっ、ちょっと迷子になるよ!」 走る智也の後ろ姿にリナは慌てて声をかける。  「大丈夫、ラジオスタジオまで1本道だから」 豊川の言葉で智也がどこに借りに行ったのかリナは理解した。  複雑だった。 さっき光一とすれ違った。  智也が借りに行った相手は光一。 リナにサインを貰うと知ったら光一はどう思うのだろう?  きっと引き攣り笑いするんだろうなあ。とリナは想像した。 「小さい子にも人気なんだね」 智也が去った後、yoshiがリナに話かける。  「私の事、知ってたの?無反応だったから知らないんだと思ってた」 「ドラマ見た事あるから」 「本当?どう?面白い?」 「あ…、恋愛ドラマは苦手で、でも違うテレビ局でやってた刑事ドラマは面白かった」 「恋愛ドラマって男の子は見ないの?」 「さあ?俺は苦手かな?」 yoshiはごめんねって可愛く笑う。  「ちょあ」 「チョア?韓国語?」 笑顔のあまりの可愛さにリナは変な雄叫びを上げてしまった。  慌てて口を塞ぐがyoshiはきょとんとしている。 「あ、うん韓国語…韓流ドラマ好きで」 と、とりあえずごかました。

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