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優しい腕

誘われているのかと一瞬思った。  でも、小刻みに震える身体に気付き、甘えているのだと分かった。  安心されるように一緒にシーツの中へ入ると、yoshiは小さい子供みたいに顔を胸に埋めてきた。 頭を撫でているうちに寝息が聞こえてきて安心した。  よって、豊川は一晩中、理性と戦う事になる。  ◆◆◆◆◆ 家に着き、玄関へと入ってナオはyoshiの靴がまだ無い事に不安が過ぎる。 「帰ってないの?」  拓海も玄関を覗く。  今日中に謝りたいと付いて来たのだ。  何度電話入れても応答はない。  帰っているかと思ったがやはり帰っていない。  yoshiの友人はあまり知らないし、どこを捜して良いか分からない。 「もしかして社長と一緒なんじゃないの?後を追い掛けたのは社長だけだし」  知っている誰かと一緒なら良いが、それよりも…  「あの子、薬を持っていたかな?って」  「薬?」  拓海が聞き返す薬とは、 「yoshi、喘息持ちなんだよ。寝込んでたのも発作が起こったからで」 喘息の薬。 軽い発作だったが完治していない彼がもし一人だったら、  発作を起こしていたら? 最悪の事態ばかりを想像してしまう。  「喘息?ああ、発作起こすと…」  ヤバイんだよね。とは続けて言えなかった。  真っ青な顔で色々と考え込むナオにもっと落ち込むような事を言いたくはないのだ。  「帰って来るんじゃない?他に行く所ないんだろ?」  「だからだよ、だから心配なんだ!」  拓海に苛々をぶつけるように叫んだナオは、  「ごめん、苛々して」  すぐに謝った。  ほら、 やっぱりyoshiには敵わない。  温厚で冷静な彼がこんなに…取り乱している。  そんな中、拓海のスマホが鳴り響き、慌てて電話に出た。 「拓海?ナオと一緒か?」 電話の相手は豊川。  「一緒だけど?」  答えると、ナオに代わるように言われた。  「豊川さんから」  電話を渡すとナオは、慌てるように出た。  「嘉樹くん、うちに居るから大丈夫だよ」  その言葉でナオはホッとしたように座り込んだ。  「ちょ、ナオさん」  拓海が心配して側に来た。 「はい。よろしくお願いします」  ナオは豊川に御礼を言って電話を切った。 豊川からyoshiは疲れて寝ていると聞いて安心した。 発作は出ていないようだし、とりあえずは知っている人に保護して貰っている。 電話を拓海に返し、立ち上がる。  「拓海、ご飯食べてないだろ?作るよ」  拓海の頭を撫で、キッチンへ向かう。  ちぇ、なんだよ。  yoshiが無事だと分かった途端にあの笑顔。 どうやってもyoshiには敵わないんだ…。  拓海はそれでも良いとキッチンへ向かう。 yoshiの代わりでも、2番目でも側に居られるなら、それでも良い。 ◆◆◆◆ 電話をベッドの側の台の上に置くと豊川はまたyoshiを抱き寄せた。  豊川は寝返りをうって、そこに居たはずのyoshiが居ない事に気付き慌てて起きた。  ベッドにはやはり豊川だけ。  いつの間に?  明け方近くまで眠れなかったのだけれど、短時間だが眠ってしまったようだった。  その間にyoshiが消えている。  家に帰っているなら良いけど、とベッドルームから出ると良い匂いがキッチンから漂っていた。  キッチンにyoshiが居て、豊川に気付くと、  「あ、勝手に冷蔵庫漁った」  と微笑んだ。  yoshiの姿にホッとした豊川は笑って、  「おはよう」 と言った。  「もう、できるから」  yoshiは手際よく料理を作りあげると、食器に盛り付け豊川が座ったテーブルへと運んで来た。  「手際よく作るんだな」 料理を並べるyoshiを褒める。 「まあ、作らなきゃいけないしね」 と答える彼。 アメリカ育ちの彼が作った料理は意外に日本食。 「豊川さんはなんとなく和食かな?って」  「まあ、…うん、日本食派かな?」  豊川がそう言うとyoshiは嬉しそうに笑った。 一緒に席につき、食べてみると、中々の腕前で凄く美味しい。  美味いと何度も呟きながら食べる豊川を見て、yoshiは満足そうな顔をしている。  食べ終わる頃に、  「昨日はありがとう」 と目を伏せて礼を言うyoshi。  照れ臭いのだろう。  子供みたいに泣きじゃくったのだから。

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