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優しい腕 5話
「お前の態度は謝る時も上からっぽいよな」
yoshiに相手にされず膨れっ面の光一。
豊川には彼が本当に反省しているようには見えない。
「う、うるさいな!俺は謝るの苦手なんだよ」
図星をつかれ、今度は逆ギレする光一。
「お前らしいな。まあ、とりあえず彼は秘書にしたから謝るチャンスはいくらでもある。許して貰えるまで謝り続けとけ」
「はっ?秘書?」
光一は思いもよらない豊川の言葉に驚いた。
「どんな形であれ、この世界に置いて置けば、彼がその気になるチャンスがたくさんあるだろ?」
豊川の言葉に、光一は頷いた。
「頭いーな」
そうだ、豊川の言う通り、毎日門前払いを食らうより効率的だ!さりげなく、この世界の魅力を教えていけばいい。
事務所で顔を合わせる度に話ができる。
膨れっ面だった光一は一気にニヤニヤした顔になる。
単純だよな。
そんな光一を見ながら豊川は思った。
******
秘書?
いや、違う奴隷が似合う。
豊川が与えてくる仕事はハードだった。
激しいから覚悟しとけって、コレかよ!
次から次にyoshiの元に流れてくる仕事にただ一心不乱にこなしていく。
あの鬼畜!
優しい顔して、とんだドSだぜ。
パソコンは勿論、資料集めとか言われて会社内を駆け回り、しかもビル内は広すぎる!
自社ビルとか言ってたけど、かなり金持ち!
そりゃ200万出せるよな。
資料を持って豊川の元に戻ると、待ってましたと言わんばかりに次々に仕事を振ってくる。
「ドS」
ボソッと呟き、パソコンで資料整理を始める。
時間を見ると2時前。
あれ?もうそんなに経った?
ここに来たの8時くらいだったよな?
時間経つの早いよーっ!しかも昼飯食ってないし。
餌与えてない気か?と文句を言おうと振り返ると豊川の姿がない。
あんにゃろ~自分ばっかり飯食いに行きやがってえ!
腹が立ったyoshiは、勝手に休憩してやる!と室内にあるソファーに転がった。
フカフカなソファーに仰向けになると、天井を見た。
ナオ、どうしてるかな?
ナオの事を考えると、ふと、忙しくてナオの事を忘れていたと気付く。
ポケットからスマホを取り出す。
夕べの着信履歴にナオの名前がたくさんある。
LINEも。
今、どこにいる?
yoshi、ごめん、電話に出て。
豊川さんから電話あったよ、良かった無事で。
ナオからのLINEを何度も見ながら、返信しようか迷う。
ナオこそ、今何してる?
拓海と一緒?
拓海がいい?
そんな考えたくもない事ばかり考えてしまう。
俺にはもう…ナオしかいないのに。
急に寂しくなり仰向けの身体を横にして丸くなる。
いやだ…
拓海なんか嫌い。
泣きそうな自分を自分の腕で抱きしめる。
**
ほんの短時間、社長室を離れていた豊川はランチにyoshiを連れ出そうと戻って来た。
そして、ソファーで丸くなって寝ているyoshiを見つけた。
側に行き、顔を覗くと涙のアト。
また、泣いてたのか。
よく泣く子だな。
手を伸ばし髪を撫でる。
yoshiをこき使ったのは考えさせない為。
忙しくしていれば考える余裕が無くなる。
また、こうやって泣くのを防ぎたかった。
撫でてる内にyoshiが目を開けた。
泣きはらした目。
「おいで」
豊川がそう言うと、yoshiは素直に抱きついて来た。
懐かしい匂い。
優しい腕。
安心したようにまた眠りに落ちてしまった。
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