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ワガママ 3話
◆◆◆◆◆
「コウちゃん」
パシンッと背中を叩かれ光一は飛び上がる。
「なに?そのリアクション?」
飛び上がる程のリアクションをした光一に、ちょっと驚いたように聞くマコト。
「ああ、マコトか。ちょっと考え事してて…」
考え事は拓海とナオの事。付き合っているって事はナオも同性愛者という事になる。
あれ?じゃあリナは?
リナは必然的に振られた事になる。
いや、そんな事よりも…。
ナオが同性愛者ならyoshiが恋人だよ…と言った言葉が凄く気になる。
今更だけども気になる!
聞いた時はからかわれていると思ったからだし、
その前にもっと疑問を持つべきだったんじゃないか?
ナオとyoshiには血縁関係はない。
いくら兄の再婚相手の子供とは言え、血縁関係がないyoshiと一緒に居るのは何故なんだろう?
yoshiだって二十歳なんだし、一人暮らししていても良いはず。
まさか、まさか!
嘉樹に手を出したり…
あああっ、ちょっとやばくないか?
ふと、あの時のyoshiを思い出した。
誘う色気。
息子だと知る前だけどヤバかった。
「コウちゃんってば!」
再度マコトに名前を呼ばれ我に返る。
「プレゼントは用意したの?」
「はっ?」
予想していない質問に光一の思考回路が一瞬止まる。
「やっぱり忘れてた!明日、拓也くんの誕生日でしょ!」
「あっ…」
そうだった。
忘れていた。
「いや、別に忘れてたわけじゃないぞ!嘉樹の事で頭がいっぱいでさ」
しどろもどろな言い訳にマコトはため息をつく。
「それを忘れてると言うんだけど?」
「まあな…」
苦笑いで返した。
「いいよ、そんなんだろうと思ってコウちゃんの分も一緒に買ったから、お金ちょーだい」
マコトを光一の前に手の平を出す。
「さすが、マコト~気が利くな!」
光一は出された手に握手をする。
「握手じゃなくてお金」
「あっ、はいはい」
と財布を出す。
「それより拓海くんと何話してたの?」
「あっ!その事何だよマコト、来い!」
光一はマコトの腕を引っ張り走り出す。
◆◆◆◆◆
優しい手が頭を撫でる。
懐かしい手。
きっと、あの香水のせいだ。
自分を抱きしめた豊川の香水の匂い。
泣くといつも抱きしめてくれて安心した。
初めて甘えていい大人に出会った。
大人の手の平は痛いものじゃなく優しいモノだと、その人が教えてくれたんだ。
会いたいなあ。
凄く会いたい。
光一と会ってから記憶が混乱したままで、大好きな人が他人だと、きっとどこかで覚えているのに心が激しく拒否する。
思い出したくない記憶まで思いだしてしまう。
誰に怒鳴られながら激しく叩かれた記憶。
顔が思い出されないけれど凄く怖くて…
誰かに助けて貰いたかった。
『お父さん…』
ソファーに寝かせているyoshiが譫言を言った。
豊川は近づき彼の顔を覗き込む。
『お父さん…』
耳に届く声。
英語で言った単語は光一の事ではないと豊川にも分かる。
頭を撫でると、
『どこ?』
と譫言を返って来た。
『ここに居るよ』
その場しのぎのように答える。
『ここに居るよ』
そう言って笑う男性。
『お父さん』
yoshiは嬉しくて抱き着いた。
抱き着いた身体から香る匂いが懐かしい。
嬉しくて、嬉しくて…
そして、目を開けた。
……………
映り込む天井と見下ろす豊川の顔。
えーーーーと?
なんだっけ?
今、自分が置かれている状況が飲み込めない。
ここどこだっけ?
しばらく考えて、まずい状況にいる事に気付いた。
俺、もしかしなくても寝てた?
しかも社長のひざ枕っぽくない?
考えても豊川が自分を覗き込む角度は真上からだし、頭の下に何かある。
きっと彼のフトモモ辺りだ。
「社長…何してんですか?」
確認の為に聞いてみた。
「ひざ枕。でも、ひざ枕じゃないよな。フトモモだから」
豊川の返事に、やっぱり…と冷や汗が流れる。
次の瞬間、yoshiは勢いよく起き上がった。
起き上がった身体から上着が床に落ちた。
えっ?
yoshiは慌てて上着を拾うと、それは豊川の上着だ。
白いシャツにネクタイ姿の豊川の方を恐る恐る振り向く。
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