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君が生まれた日
「歓迎会なんて良いのにさあ」
そう言いながらもyoshiは嬉しそうに笑う。
アキとサクと豊川の3人とyoshi。
人数は少ないけれど、こんな風にたわいもない会話をしながら食べるのは久しぶり。
「嘉樹くんってアメリカ育ちなんだ~カッコイイ」
アキはまだ海外に行った事がないらしく海外育ちと言う言葉に憧れているようだ。
「yoshiで良いよ」
ニッコリと笑いかけるyoshiはお酒のせいで頬がうっすらとピンクで、これまた可愛い。
か、可愛い…
「アキ、ビール足りないぞ、追加しろ」
サクの言葉でハッと我に返ると慌てて店員を呼んでいる。
「もうちょっとしたらマコトも来る」
「本当?あ…」
豊川の情報は嬉しいけれど、マコトと一緒にアイツが来るかも!と嫌な気分になる。
「どうした?」
食べる手が止まっているyoshiに気付いた豊川が話しかける。
「アイツも来るのかな?って」
「アイツ?ああ、光一?」
yoshiはこくんと頷く。
「光一さんは来ないんじゃないスか?」
ビールも追加をし、自らもちょい酔っ払い気味のアキが言う。
「なんで?」
来ないなら嬉しいけど、つい聞いてしまった。
「明日、拓也くんの誕生日だから、前日くらいは早く帰るとか前言ってた」
拓也?
一瞬誰?って思ったけれど、すぐに智也が言うお兄ちゃんだと分かった。
「ふ~ん、だらし無い父親かと思ってた」
「いや、結構子煩悩だと思うけどなあ、智也くんとか可愛がってるし」
アキはまだyoshiが光一の息子だとは知らない。
週刊誌の写真も後ろ姿だったので顔は知らないのだ。
「アキ、おら飲め!」
会話を止めさせる為にサクが無理矢理ビールをアキに飲ませ始める。
豊川は隣に座るyoshiをチラリと見た。
偶然とは言え、智也に会っているyoshi。
光一が自分の父親だと教えられている。
その事についてまだ深く話していないし、これからの事をナオと話さなければならない。
子供を可愛がっていると聞いたyoshiは今、何を思っているのだろうか?
*******
光一が運転する車内、マコトは衝撃的な事を聞いた。
ナオと拓海が付き合っている。
「そうなんだ、じゃあ…拓海くんとyoshiくんが仲が悪いのはそのせい?」
「拓海は嘉樹が可愛いから虐めたって言ってたぞ」
「ヤキモチ妬いてるんじゃないかな?お互いに」
「ああっ!」
マコトの言葉に考えていた事が確信に迫ってきたみたいで叫び声を上げた。
「ちょ、びっくりするじゃん!」
いきなり叫ぶ光一のせいでマコトの心臓は一気に心拍数を上げる。
「やきもち!何だよマジかよ」
ナオと嘉樹は…
あんな事や、こんな事…
誘ってきたyoshiの色気。
あんなんで迫られたらヤルだろーっ!
あああ、違うと誰か言ってくれーっ!
「コウちゃん、今夜は帰るよね?」
話題が急に変わり、
「なんで?」
と怒るような口調で返事してしまった。
「なんで怒ってんだよ!明日、拓也くんの誕生日だから前日くらい早く帰れって麻衣子さんに言われてるでしょ?」
麻衣子とは光一の今の奥さんだ。
そうだった…。
「僕は次の交差点で降ろして」
「事務所に戻らないのか?」
「嘉樹くんの歓迎会だよ」
「はあ?」
光一は更に大声になる。
「なんだよ、俺は呼ばれてないぞ!」
豊川の野郎!
仲間外れかよ!と怒りだす。
「コウちゃん来たらyoshiくん帰っちゃうし、コウちゃんお酒禁止にされてるし、今夜は帰るだろうとタケちゃんが呼ばなかっただけだよ」
お酒禁止。
その言葉にズキンッとくる。
つい最近、悪酔いして豊川に迷惑をかけたのだ。
「飲まなきゃいいんだろう」
「なに?来る気?」
マコトが露骨に嫌な顔をする。
「悪いか?」
光一はそう言うと駐車場を捜し出す。
********
撮影が終わった拓海はスマホを見つめる。
ナオからメールや着信がないかの確認。
それは毎日の日課。
まだ何もない。
ため息をついてスマホをポケットに入れようとした瞬間、着信が鳴る。
ナオさん?
慌ててスマホを確認すると、残念ながらナオではない。
「ち、優かよ」
表示された名前は優。
「着拒しときゃ良かったな」
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