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君が生まれた日 3話

会計を済ませ、店の外で解散。 マコトが余り飲んでいなかったのでサクとアキはマコトに付き合うと言い出している。 そんな中、光一の車が見えたので、マコト達は次の店へ移動して行った。 路肩に停まった光一の車の後部座席へyoshiを乗せた。 走り出した車内で光一が後部座席に居る豊川をミラーを使い見ている。 視線を上げた豊川とミラー越しに目が合った。 何か言いたげな光一に気付いた豊川は「どうした?」と聞く。 「なんで後ろなんだよ!しかも、膝枕とか…」 豊川はyoshiを膝枕させている。それが気になるようだ。 「吐かれたら困るだろ?」 確かにそうだけど、何となくyoshiを他人に触られるのが嫌になっている自分がいるのだ。 豊川はyoshiを見下ろすと、酒を飲んで熱い頬に優しく触れる。 さっきまで乱れていた唇。 首筋に自分が残した印を見つける。 そして、甘い声を出すyoshiを思い出す。 もし、yoshiを淫らな姿にさせた自分を知ったら光一はどうするのだろう? 「なあ、」 タイミング良く光一が口を開いたので豊川は少し、驚いた。 「ナオと拓海付き合ってんの知ってたか?」 「えっ…?ああ、」 何を言われるかと思った。知ってるわけがないのに。 そして、悪い事をしていると自覚している人間はちょっと自意識過剰気味になるんだな、と思った。 「ああ、って知ってたのか?」 驚いたように聞き返す光一に「嘉樹に聞いた」と返した。 アイツめ、俺には全く懐かないくせに! 豊川に嫉妬しそうになる。 「で、何が言いたい?同性愛者に偏見があるとか、今更言うんじゃないよな?」 豊川がそう言うのはyoshiに手を出しそうになった光一に対しての嫌み。 「そういうんじゃないよ。ただ、ナオ…ナオはなんで嘉樹と一緒に居るのかな?って」 「兄の再婚相手の息子で情が湧いたからじゃないか?」 「そ、そうか?」 そうなら良いけれど。 本当にそれなら良いけれど…。 考え過ぎかな?って思いだして、恥ずかしくなる。 良かった、口に出さなくて。 「なあ…」 今度は豊川から話掛けて来た。 「うん?」 「…お前、嘉樹が生まれた日の事、覚えているか?」 急に言われた言葉の意味が光一の脳に届くまでに数秒かかった。 「と、突然なんだよ?」 「明日は拓也くんの誕生日だろ?毎回、プレゼント忘れてるお前だから、嘉樹の誕生日覚えてんのかな?って」 「お、お前なーっ、誕生日くらい」 「雪だった…」 光一の言葉にかぶせるように豊川は言う。 「雪?」 雪… そう、雪だった。 豊川はyoshiの手に触れた。 あの小さい手が、今は成人した男性の手に成長している。 彼が生まれた日は鮮明に覚えている。 雪が降っていた。白い雪が都会を白色に変えた日だった。 そして、光一が離婚する前、yoshiが楽屋に来ていた時に、怒られたyoshiを慰めた事があった。 「どうした?怒られたか?」 小さい彼に話かけると大粒の涙をこぼした。 「おいで」 そう言うと抱き着いて来た。 全く…変わらないな。 豊川は泣いて抱き着いて来るyoshiが幼い時と代わらない事に思わず微笑む。 「雪、降ってたな。都会に雪降るんだなあって思ったのを思い出した」 光一がそう懐かしそうに言う。 「お前、悔しくないのか?嘉樹に忘れられて。マコトは思い出したのに」 ズキンッと来る言葉。 悔しくないわけない。 でも、罰だと… 嘉樹を捨てた罰だと受け止めたから。 「思い出させてみせるよ」 光一は余裕っぽく言う。

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