49 / 275

君が生まれた日 6話

自分に背を向けて横になるyoshiにシーツをかけ、 「おやすみ」  と頭を撫でるナオはyoshiの首筋の赤い印が目に入った。  服をめくり確認したい症状に駆られる。  夕べ拓海に自分もつけられた印…  いつ?  誰につけられた?  誰かを抱いた?  それとも抱かれた?  そんな嫉妬に近い思いで頭が支配される。  アメリカに居た時、yoshiにも恋人が居て、きっと、色々体験しているはず。 日本に来て、友人はおろか恋人が出来たなんて報告は聞いていない。 昔は何でも報告して来たyoshiが自分が知らない事をやっていたり、見たりするのが嫌だ。  本当に自分勝手だ。 yoshiだって子供じゃない。  言わない事がこれからも増えてくるだろう。 それが、堪らなく寂しくて辛い。 そんな嫌な感情を最近は良く感じるようになっている。 それを消すようにシーツを首筋までかけ、見えないようにして部屋を出た。 光一と豊川が待つリビングへ戻る。 「寝かせてきました」 ナオはいつもの笑顔を見せる。 「あのさ…」 光一は拓海に言われた事をずっと考えていた。 血の繋がりもないyoshiと暮らしてきた理由が知りたい。 豊川がいうような情で一緒に居るのなら良いけれど、それ以外の感情だったら? そればかりが頭を支配する。 「何ですか?」 人懐っこい笑顔のナオ。 「嘉樹は施設に居たと週刊誌に書いてあったけれど…いつから一緒に?」 単刀直入になんて聞けない。じわじわと質問攻めにしようと光一は当たり障りのない質問をした。 「yoshiが事故に遭った時に僕はまだ学生で、僕も両親を早くに亡くして兄と二人でした。兄が結婚しても僕は兄夫婦と同居していて、yoshiは弟みたいに可愛くて。…兄夫婦が亡くなって引き取りたかったけれど未成年な僕には無理だった。だから兄夫婦と仲良しだった老夫婦に頼み、yoshiを引き取って貰うように頼んだんです。」  ナオは淡々と話していく。 「それから僕は大学を卒業して就職して…yoshiと僕はずっと親代わりの老夫婦と暮らしてました。日本に転勤が決まった時にyoshiがどうしてもついてきたいと言うから一緒に来たんです」 ずっと二人暮らしでは無かったと光一は安心した。 やっぱり考え過ぎかな? ナオが同性愛者と知ってしまったから余計な心配をしてしまった。 偏見はないけれどyoshiに未成年の内から淫らな行為をしていたらどうしようとか思ってしまったのだ。 「記憶がない事はどんな対処をしてるんですか?親を亡くした子供のショックは大きい」 豊川は光一とは違う心配をしていた。 yoshiの爪を噛む行為。  子供時代に愛情不足だった為とか云われている行為だ。 血が滲むまで噛むのが心配だった。 「向こうではずっとカウンセリング受けさせてました。事故当時は全く話さなかったですし、退院間もなく施設に行く事になったから、その時から少し子供みたいにすぐ泣いたり叫んだり大変でした。だから施設に居たのはほんのわずかなんです。週刊誌は可哀相な記事を書くのが好きですからね。…一人になるのを凄く不安がるんです。」 ナオの言葉で甘えて抱き着いてくるyoshiが不安からなのだと豊川は改めて納得する。  抱き着いて離れなかったyoshiが幼い子供みたいで…ああっ、不安なのかな?と感じたのだ。 「兄を実の父親だと言い出したのもその頃です、今も一ヶ月に一度は知人のカウンセラーに診て貰ってます…でも、光一さんに出会ってから、多分…思い出しかけてるんじゃないですかね?よく熱を出したり、感情が過敏になったり…」 「思い出すかな?」  光一は思い出して欲しいと願う。 ********  yoshiの話を少しでも聞けて良かったと豊川は思った。  彼が何を考えているかを知りたい。 「事務所で降ろしてくれ」 運転する光一にそう告げる。 「マンションに帰らないのか?」 「仕事が残ってるんだ」 「分かった」 光一は事務所手前で豊川を降ろした。  仕事熱心な豊川の後ろ姿を見送る。  そして、yoshiが豊川に懐いているのが気に入らない。 ちょっとヤキモチに似た感情を抱え光一は久しぶりに日付が変わらないうちに自宅に着いた。

ともだちにシェアしよう!