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君が生まれた日 7話

「あら?ちゃんと帰って来たのね」 リビングへ入った瞬間に妻に嫌みを言われた。 「ただいま、子供達は?」 おかえりなさい。なんて随分言われていない。  余り帰らないのだから仕方ないのかな?なんて思う。 「智也はもう寝ちゃったわ。拓也は部屋でパソコン」 「そうか」 夫婦の短い会話はそれで終了。 ご飯食べる?とか、仕事どう?とか聞いてさえくれない。 妻の麻衣子は光一の顔をまともに見ようともせず、リビングを出て行った。 今更、夫婦らしい事なんて可笑しいのかな? たまに思う、どっちがこんな風にしたのだろう?と…。 二階は拓也と智也の部屋がある。 智也はともかく、拓也との会話は最近ゼロに近い。 何を考えているのか分からない。 会話さえないから。 そう考えると口が悪くても会話を交わせるyoshiが可愛く思えてくる。 二十歳かあ…。 リビングのソファーに座り、横になる。 ……4歳だった。 最後に彼を抱きしめたのは4歳の彼。 涙をいっぱいためて、  「バイバイ」  と手を振っていた。 あの時、手を離さなかったら今も一緒に居て…  生意気な口をきくyoshiと喧嘩をしていただろうか? あの子が生まれた日、ちゃんと覚えている。 雪で車が渋滞で、病院についたら、小さい赤ちゃんが泣いていた。 「爪の形、あなたにそっくり」  そう言って笑った美嘉。 小さい指が光一の指をギュッと握った。 温かい小さな命。 ああ、俺も父親なんだなあ…ってシミジミ感じた。 たまらなく嬉しかったはずなのに、  人って、なんでも忘れていくんだ。  可愛いとか、嬉しいとか、めんどくさくなってしまった。 きっと、俺は誰も愛せないんだと。yoshiと別れて気付かされた。 世界から色が無くなったのはその頃から。何も感じない。女性とセックスしても、身体で感じても心は何も感じなくなっていた。 きっと、元から誰も愛せないのに、結婚して子供まで作ってしまった。 愛してやれないのに…… あの小さな手をもっと沢山繋いでいれば良かったのかな? 小さな彼は成人して、父親を求めてくれない。 自業自得だと、自分に言い聞かせた。

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