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思い

*** 何時の間に、自分の居場所を無くしてしまったのだろうか? 光一は朝食を食べる事もせずに家を出て来ていた。 事務所に早く行ってもなあ、誰も居ないかな? いや、豊川が居るかもな。アイツ、真面目だから…。 飲み会が終わっても仕事に戻るような奴だし、高校の時は生徒会だった。 ムカつくくらいに何でも出来た。 アイツには…負けてたなあ。いつも、いつも。 嘉樹も俺には生意気な口きくくせに、豊川には懐いているし。 どうやったら、嘉樹は俺に懐くのだろう? 智也みたいに素直な子供なら。 拓也ももっと素直なら。 やっぱ、年頃の男の子は父親に反抗的なのは今も昔も変わらない。 拓也が何故、扱いにくいのか、 嘉樹が何故、懐かないのか。 本当は自分でも気付いている。 そんな事を考えながら事務所の地下にある駐車場に着いた。 **** 「アイツ、仕事?」 お弁当を作っている麻衣子に話かけて来たのは拓也。 「アイツとか言わないの!」 「いいじゃんアイツでも。」 母親の注意に少し面倒くさそうに答える。 「今日の誕生日、友達呼んだ?」 「は?ガキじゃないんだから誕生日とか家でやんないから。今日は友達とカラオケとか行くし」 「カラオケ?別に今日じゃなくても良いじゃない?」 「やだね!」 反抗的な態度の拓也に慣れたよに麻衣子は微笑むと、 「じゃあ、今月小遣いなしね」 余裕で言われた。 小遣いなし。 年頃の男子には結構効くようで拓也は舌打ちして、渋々承諾した。 鞄を取りに部屋へ戻ると週刊誌が目に入る。 記事の内容が気になり、内緒で買ったモノ。 記事には光一の前妻も子供の事が書かれてあった。 再婚だとは拓也も知っている。 でも、息子の存在をそんなに感じた事はなかった。 それが、週刊誌の記事で凄く意識してしまう。 顔は知らない。 ただ、二十歳という事と、1人で苦労しているという事。 後ろ姿だけの写真を見た時に、この人はアイツに似てるのだろうか?と思った。 でも、そんな事を考える自分に笑ってしまう。 拓也は週刊誌をゴミ箱に捨てると鞄を持ち、部屋を出た。 ◆◆◆◆ 「なんだ…アンタか」 光一が事務所のドアを開けた途端に、yoshiからガッカリされた。 とっさに固まった光一だが直ぐに、 「何だとは何だ!」 とyoshiに言い返す。 その様子が子供みたいでyoshiはつい、笑ってしまった。 「何、笑ってんだよ!」 「別に…」 yoshiはくるりと向きを変え社長室へ行こうとする。 「待て!何で俺でガッカリするんだ」 光一はyoshiの肩を掴むと、そう言った。 「別に、アンタいつも来るの遅いじゃん、だからアキかマコちゃんかと思っただけ」 yoshiは鬱陶しそうに掴まれた手を払う。 「お前なあ!」 反論しかけて、確かにいつも遅いよな。と納得した。 それ以上の会話をしたくないかのようにyoshiが歩き出そうとするので、また彼の肩を掴む。 「あー、もう!鬱陶しい!」 yoshiは怒ると光一の手を再度振り払う。 「嘉樹はいつも怒ってるな」 「アンタが怒らせるんだろーが!」 「いやいやいや、お前が先に怒らせる態度を取るのが悪い」 「お前呼ばわりすんなオッサン」 「じゃあ嘉樹も俺をオッサンとかアンタとか呼ぶなよ」 「はあ?他に呼び方ないだろ?」 「あるだろ…えっと、」 お父さん… なんて呼んではくれないだろうな。 もっとゆっくりと嘉樹と話をしてみたいのに生意気な態度しか取らない彼とのコミュニケーションって、どうすればいいんだろう? 「朝からウルサいぞ二人とも」 社長室から豊川が出て来た。 嘉樹が社長室から出てすぐに二人の漫才のような言い合いが聞こえたので豊川は様子を見に来たのだ。 「コイツが絡んで来るんだよ」 「コイツじゃないだろ!あーもう、名前で呼べ」 言い付けるような嘉樹の態度に光一はまたムキになり、そう言ってしまった。 コイツやアンタや、オッサンよりは名前で呼ばれた方がまだマシだ。 「んじゃ、光一」 「呼び捨てかよ!」 名字をサン付けどころか下の名前を呼び捨て。 力が抜けそうになった。

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