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思い 2話

「文句あんの?」 生意気な態度のyoshi。 生意気だけど、会話がちゃんと返ってくる。 これが拓也なら無言で立ち去っているだろう。 「まあ、いっか」 自分が父親だと記憶が無い彼にお父さんなんて呼んで貰えるはずもないし、それに、アンタやオッサンよりも名前を呼んでくれた方がまだマシ。  「いいのか?」 豊川が心配そうに聞いてくれるが、  「構わないよ」 とアッサリ返した。  「案外素直なんだ」 yoshiはクスッと笑う。  自分でもさすがに呼び捨ては失礼かな?とか思っていた。  アッサリといいよ。と言う光一につい、笑ってしまう。 笑うyoshiの顔を見て、幼かった彼と重なった。  ああ、笑う顔は変わっていないと今、気付いた。  どうして、初対面では気付かなかったのだろう?  こんなにも美嘉に似ていて、幼い時の面影があるのに。 「光一、仕事」 豊川に肩を叩かれ、我に返る。 「仕事…」 そう、仕事だ、仕事。  yoshiと顔を合わせられるけれど、仕事で結局は少ししか話せない。  だから…、  *** 「だから何で俺まで一緒に行動するわけ?」 光一は仕事先のテレビ局にyoshiを連れて来ていた。  もちろん、豊川も一緒。  「豊川の秘書だろ?だったら一緒にいなきゃ」 ブツブツ文句を言うyoshiに光一はそう言う。  「そうだけど…俺は事務所で留守番で良かったんだよ」 「嘉樹は嫌な思いしたからな」 豊川はyoshiの頭をポンポンと軽く叩く。  嫌な思い。 拓海の事だ。 光一も、そうだったと思い出し、  「嘉樹、…ごめん。俺…なんか考えなしだったし…その、ちゃんと謝ってなかったし…」  謝ろうと思うのだが、上手く言えない。 昔っから、謝るのは苦手だ。  光一が上手く言えずにしょんぼりしているように見えて、背丈が180以上の大柄の男がしょんぼりしている姿は何だか、面白くて… 「何の話?…あんまり気にしてるとハゲるぜ?」 yoshiはあの時の嫌な気持ちがどこかへ消えて、自然に笑えた。  「ハゲ?ハゲるかバカ!」 光一にもyoshiが許してくれていると感じとれたのか、嬉しくて、自然に笑えた。 行き交うスタッフ達が豊川と光一を見て、向こうから挨拶をしてくる。 あからさまにご機嫌伺いも居たが、二人が大物だとyoshiは改めて実感した。  光一がプロデュースした歌手が歌番組に出るというので収録に光一も呼ばれていたのだ。 歌番組だから、拓海には会わないよね?  と、yoshiはつい、拓海が居ないかと気にしてしまう。 「珍しい?」 周りをキョロキョロするyoshiに豊川は声を掛ける。  「うん…まあね」 まさか拓海を気にしているなんて言えず、そう言って笑って誤魔化した。 しばらくするとスタッフがざわつき出した。 yoshiも気になり豊川にどうしたのかと聞いていると、スタッフの1人が豊川の方へ慌てて走って来た。  「あの、HIROTOが来ないんですが」 HIROTOとは光一が曲を書いた新人歌手。  「は?マネージャーと連絡は?」 光一も慌てているようだ。  「マネージャーと連絡取れたんですが、HIROTOのマンションに迎えに行ったら不在らしく」 スタッフの説明に光一は頭を抱える。  言いたくはないが、つい、最近の若い者は!と叫びたくなる。  仕事をすっぽかすなんて100年早いんだよ!なんて考えを巡らせ、豊川に助けを求めるようにチラリと視線を送る。  豊川はどこかに電話をかけて、しばらく誰かと話、そして、また誰かに電話をしている。  待つ事5分。  「HIROTOを捕まえた。到着まで30分だな」 スタッフはその事を番組プロデューサーに伝えに行った。  「すげえ、豊川!HIROTOどこに居るんだよ」 光一は尊敬の眼差しを豊川に送る。  「HIROTOはアイドルの香奈マンションだよ。香奈のマネージャーにHIROTOと香奈のスキャンダルを今から流すと脅したらHIROTOに連絡行ったみたいだな」 豊川はニヤリと笑う。  マネージャーは大抵、アイドルの恋人までも把握して協力していたりする。それを使ったのだ。  「香奈がオフだから一緒に居たかったみたいな事をぬかしてたな。穴開けたらHIROTOは追放するよ」 豊川は真顔でそう言った。  真顔の豊川は光一も怖い。  本気な時だからだ。

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