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思い 3話

「すみません、あの、カメラと音のチェックしたいんですが?」 先ほどのスタッフが戻って来た。  リハーサルをやりたいが肝心のHIROTOが居ないのでスタッフは困った顔をしてどうしようか悩んでいる。  「あっ!」 光一が何かを思いついたように声を上げた。  **** 「もう!留守電ばっかり!」  楽屋でイライラしながら優は電話を切った。  拓海と連絡が取れなくなって2週間が過ぎている。  遊びだって本当は気付いていた。  分かっていたけれど、好きな気持ちは止められない。  「優、もう少しかかるみたいよ」 優より一回り上の女性がドアを開けて入って来た。  「HIROTOでしょ?どうせアイツ、香奈のマンションよ!一週間前まで私にしつこく言い寄ってたくせに」 優のイライラのもう一つの原因。  HIROTOはつい最近まで優に言い寄っていた。  それなのに、香奈にアッサリと乗り換えた。  バカみたい!  なんて悪態をつくが羨ましくもある。  忘れる事が出来るから。  すぐに次の恋愛へ進める人が羨ましい。  「そりゃ、相手にされないなら次に行くでしょ?特に若い男の子は盛り激しいからね」 マネージャーの女性はよくある事よ、と言う。  「本当、男ってバカみたい!」 優はイライラしながら楽屋を出ようとする。  「どこいくの?」 「リハを先に済ませるのよ」 何かをしていないとイライラから寂しさに変わりそうで怖かった。  **** 「光一と居るとロクな事ない」 yoshiはふてくされてカメラの前に居た。  HIROTOの代わりにとカメラの前に出されたのだ。  ただのリハーサルだからと光一とスタッフに頼み込まれた。  光一だけなら断ったのだけれど、豊川にも頼まれ仕方なく承諾したのだ。  指示通りに動くyoshi。  そして、  「音チェックしたいから歌って」 と指示を受けた。  yoshiはステージから光一を睨む。  ふざけるな!  と、確実に口が動いている。  「歌って…なんでも良い?」 光一はスタッフに確認する。  「HIROTOの歌が良いんだけど…」 「音チェックなんだから何でも良いだろ?」 HIROTOの歌を知らないyoshiを気遣い、光一は強引に他の歌でOKを出させるとバックバンドにyoshiが街で歌っていた曲を演奏するように頼んだ。  結果、yoshiは歌う羽目になる。  **** 優は入り口近くで足を止めた。  「どうしたの?」 後ろから来たマネージャーが立ち止まる優に声を掛ける。  「ねえ、あの子…」 優はステージを指さす。  「綺麗な子ね。歌も上手いし、今日、新人が歌う予定あったかしら?あっ、HIROTOの代わり?」 ステージで歌うyoshiを優はじっと見つめている。 あの子…  「あの子、知ってる」 「えっ?誰なの?」 「さあ?名前は知らない」 「えっ?今、知ってるって」 優の答えにマネージャーはキョトンとなる。 「名前は知らない。でも歌ってるのを見た事あるの」 いつだったか街で見かけた。  綺麗な歌声だと足を止めた。  楽しそうに歌う彼をしばらく見ていたのを思い出す。  ******* 「ご苦労様」 リハを終えたyoshiが豊川の元に戻って来たので、声をかけて頭を軽く撫でた。 「もう二度とやんないから」 ちょっと怒ったようなyoshi。  「そう怒るなって…夜、気持ち良くしてあげるから」 豊川は耳元で囁く。  思いもよらない言葉にyoshiは顔を赤くした。  自分からの攻撃は強いくせに、仕掛けられたら、どうやら弱いらしい。  可愛い小悪魔はやはり、まだ純粋みたいだ。 光一はカメラチェックをしているスタッフに声をかける。  「どうだ?ちゃんと録画したか?」 「もちろん、カメラ映り良い子ですね。アップにも耐えれるくらいに綺麗だし、歌声も良い。良い素材見つけましたね。」 「まーな、ダビングしといてくれ」 光一はyoshiをステージに引っ張り上げた時に録画した映像でyoshiのデモテープを作ろうと企んだのだ。  思った以上に周りには好感触で、彼の歌声に皆、聞き入っていた。

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