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思い 4話

「今度からはついて来ないからな」 yoshiは光一を睨む。  「そんな怒るなって!お詫びにランチ奢ってるだろ?」 不機嫌なyoshiと向かい合わせに座った光一は気持ち悪い程、ニコニコしている。  局の社員食堂で3人でランチなのもyoshiの不機嫌な原因のひとつ。  「安いランチで誤魔化すなんて、金持ちなくせにセコい」  「セコいとか言うな!この時間帯に外で食べると目立つだろ!」 「光一は自意識過剰だな、誰もオッサンに興味ないよ。アイドルとか若手俳優なら騒がれるだろうけど」 「なんだとコラ!」 「あーっ!もうウルサい」 yoshiと光一の間に豊川が入る。  「光一、この借りはちゃんと返せよ、こんな安いランチじゃなくて」 yoshiと豊川に嫌みを言われ、  「分かってるよ!豊川まで嫌みかよ」 ブツブツと文句を言う。 「お食事中すみません」 食事をする3人の側に申し訳なさそうに低姿勢な男性が来た。  男性はHIROTOのマネージャーで、迷惑かけた事を謝りに来たようだ。  「新崎さんや、社長には大変ご迷惑をかけまして誠に申し訳ありませんでした。」 マネージャーは深々と頭を下げる。 「HIROTO、ちゃんと注意しとけよ。新人なのにちゃんと教育してないから迷惑かけても平気なんだよ」 yoshiはそう言う光一を横目で見ながら、アンタもあまり人の事言えないよなあ。と思っている。 「君の所のタレントには今後一切関わらないから。そう社長に伝えてくれる?」 豊川は表情も変えずにそう言った。  「えっ?待って、待って下さい!」 マネージャーは真っ青な顔になり、慌てている。  「待たない。HIROTOはいくつだ?この子より年上だろ?」 豊川はyoshiをチラリとみる。  「年下に助けて貰った上に何故、自分で謝りに来ない?自分でした過ちは自分で処理するのが大人だ。小さな子供だってごめんなさいは言える。ふざけるな!とHIROTOに伝えろ」 豊川は怒鳴りはしないが低い声とキツい視線で、マネージャーは何も言い返せない。  「行くぞ」 豊川はyoshiと光一を促し、食堂を出た。 「豊川、さっきのは」 光一は前を歩く豊川に話掛ける。  「HIROTOには今後一切関わらない。それだけだ」 振り返らずに豊川は答え、背中が怒っているといってる。 これは本気だ。 光一はそれを嫌っていう程味わって来た。  まあ、確かにHIROTOが悪い。  でも、若い時はよくある事。自分も同じような事をやってきた。  だから、つい、一度なら許しても良いと甘い考えを持ってしまった。 「HIROTOも終わったな」 光一は小さく呟く。 「豊川さんって怒らせると怖いの?」 呟きが聞こえたyoshiは小声で聞く。  「怖いってもんじゃないぞ、俺は絶対に逆らえないし、学生時代も不良にさえも恐れられてたな。もちろん先生にも」 「そうなの?」 yoshiは前を歩く豊川の背中を見ながら歩く。  優しい豊川しかまだ知らなかった。 食堂の彼は見た事もない冷たい表情で、少し怖かった。 自然界の中で逆らえない肉食獣みたいな感覚。 だからマネージャーも固まっていたんだと思う。 「光一、尾ひれをつけて話すな。誤解される」 そう言って振り返った豊川はyoshiが知っているいつもの彼。  ちょっとホッとした。  「いやいや、事実だし」 「何が事実だ!だいたい、いつもお前が他校の生徒とトラブルを起こして、巻き込まれるのが私だ!」 「何だよソレ!俺がトラブルメーカーみたいに!」 「それこそ事実だ!行こう嘉樹、側に居たらトラブルに巻き込まれるぞ」 豊川はそう言うとyoshiの手を引っ張り歩き出す。 「こら、待て!何でいつも俺が最後は悪者扱いなんだよ」 光一は先を歩く2人の後を慌てて追う。  横を歩く豊川をチラリと見るyoshiに、豊川も気づき微笑む。  あっ、いつもの微笑みだ。  yoshiも安心して微笑み返した。

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