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思い 6話

「拓海はもう止めた方が良いわね。自分でも分かっているんでしょ?」 その問い掛けに優は答えなかった。 誰に言われなくても諦めないといけないくらい、分かっている。  ただ、諦めるタイミングを逃しているだけ。  次の仕事場に着き、優はビル内へと入る。  エレベーターを上がり、ガラス張りの喫茶店を横切った時に、目についた男性が居た。  yoshiだ。  「あの子…」 様子を伺うように店内を覗き込む。  誰か雑談をしているようで、彼はずっと笑顔で話している。  相手は…、  長い髪の横顔はよくテレビで見る顔。  話した事はない。  リナ…。  知り合いなんだ。  と、何故かショックを受けている自分が居た。  凄く仲良そうな感じがして、ショックな感情の中に羨ましいという気持ちも混ざっている。  その感情が嫌で、優は首を振り歩き出す。  でも、また気になりyoshiを見る。  可愛い笑顔だなあ。  あんな風に私にも…  と考えてしまい、また首を振って歩き出した。  「優、そっちじゃないわよ」 後ろから声を掛けられ優は振り向いた。  その瞬間、ガラスの向こうのyoshiと目が合った。 ほんの一瞬なのに、ドキッとした。でも、それを隠すように優は来た方向に足早で進んで行った。  「嘉くん、どうしたの?」 違う方向を見ているyoshiにマコトは声を掛ける。 「ううん、別に」 yoshiはまたマコト達の方向へ視線を戻した。  「あっ、そろそろ行かなきゃ」 リナは時間を気にし出す。  「もうそんな時間?」 yoshiは時間の速さに驚く。  「楽しい時間ってあっという間ね」 リナは鞄を肩に掛け立ち上がる。  「また、会えるといいね」 yoshiはリナに微笑む。  凄く可愛らしく笑う彼に、天使の微笑みってこういうの?なんて考えてしまったリナ。  「またね」 挨拶をして、yoshiに手を振り、マコトには頭を下げてリナは喫茶店を出て行った。 「嘉くん凄いね」 リナが立ち去った後にマコトがニコニコしながら話す。 「何が?」 キョトンとするyoshi。  「リナちゃんもだけど、女の子はみんな、嘉くんに夢中になるよ」  「はい?」 「店内の女の子、チラチラ嘉くんを見てた」 マコトはそう言って微笑む。  「マコちゃんを見てるんじゃないの?」 yoshiはすぐに否定する。  「嘉くんだよ。自分がカッコイいの自覚してないの?」 「カッコイい?カッコイいって云うのは直とかマコちゃんとか…豊川さんの事をいうんだよ」 yoshiは笑う。  「お世話上手くなったね。まあ、確かにナオくんとかタケちゃんはカッコイいよね。あと、コウちゃん」 「えっ?光一ってカッコイいのか?」 マコトの言葉にyoshiは嫌そうに答える。  「光一?コウちゃんを呼び捨て?」 「アイツが呼び捨てで良いって」 「そうなんだ…」 お父さんって呼ばれたくないのかな?なんて余計な心配をしたくなる。 yoshiの気持ちを知りたい。 光一の事をどう思っているか。記憶を思い出したくないのか? でも、混乱させたら?  そんな複雑な思いを抱いてyoshiを見る。  「あのさ、豊川さんって厳しいの?」 「えっ?何で?」 yoshiは先程の出来事をマコトに話す。  「確かに厳しい一面はあるよ。でも間違ってない事ばかりだから誰も逆らえない。まあ、ドSだねタケちゃんは」 「ドS…」 yoshiは不意に豊川が仕掛けてきた淫らな行為を思い出した。  確かにSだ。  激しいキスや愛撫が物語っていた。  「嘉くん顔赤いけど、具合悪い?」 心配そうに聞いてくるマコトの声で我に返る。  マンションでエロい事するとか言われた。  どんなエロい事何だろうと妄想が止まらずに  「ちょっとトイレ行ってくる」 と立ち上がった。  ******* 顔が火照る。 トイレで顔を洗い熱を冷ます。  妄想し過ぎた!  豊川の淫らな姿を思い出す。  「何だよもう!」 また顔を洗うと服の隙間からキスマークが見えた。  だから、思い出したらダメだって!  yoshiは妄想ばかりする自分が欲求不満じゃないかと思ってしまう。  たまってんのは俺かもな。  なんて反省する。  「嘉樹!」 豊川の声がした。

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