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思い出したくない事 2話

光一がビルに着くと見上げた事務所の電気が消えている。  あれ?  中に居るはずだよな? 警備室の窓を叩き、 「事務所って誰も居ないの?電気消えてるけど」 と声をかけた。  「新崎さんこんばんは、えっ、電気ですか?」 警備員は確認をして、  「あ、ブレーカー落ちてました。今つけますから」 スイッチを上に上げると電気がついた。 とりあえず、事務所へと急ぐ。 ドアを開けるとyoshiが座り込んでいた。 「嘉樹?どうした?気分悪いのか?」 光一はしゃがみ込むとyoshiの顔を覗き込む。 ガタガタと震えている事に気付き、 「嘉樹?」 と肩を掴む。  その瞬間、  「や、いや」 yoshiは光一の手を振り払う。  「嘉…どうした?」 どう見ても普通じゃない。  豊川が電話でyoshiの様子がおかしいと言っていた。 「大丈夫か?」 もう一度肩を掴むと、  「やだ、ごめんなさい、ごめんなさい」 と繰り返す。 「何謝ってんだ?な、どうした?」 そう聞いてもyoshiはごめんなさいを繰り返す。 彼は両手で頭を庇うようにして震えている。 なんだっけ…こういうの。 いつだったかテレビのドキュメンタリで見た事がある。 親に虐待された子供がパニックをおこし、今のyoshiみたいに怯えて、頭を手で庇っていた。  親に手を上げられていた子供みたい。  ううん、違う。  昔の自分だ。 父親が酒乱で光一はいつも殴られていた。  小さい自分に手をあげる父親。  理不尽なのに、ごめんなさいと謝っていた。  光一はyoshiを抱き寄せると、  「大丈夫、大丈夫だよ。な、嘉樹…大丈夫だから」 優しく声をかけ、きつく抱きしめる。  「ごめんなさい…ごめんなさい…」 震えながら謝るyoshiに、 「嘉樹、誰も怒ってないよ。大丈夫だよ…いい子だな」 と声をかけ続ける。  どうしたら良いか分からない。  あの時の自分と重なる。 あの時は祖母が抱きしめて慰めてくれた。  大丈夫、光一は良い子だよ、婆ちゃんは光一が大好きだよ  そう言って抱きしめてくれた。 「光一、どうした」 豊川は事務所に戻り、ドアを開けると光一がyoshiを抱きしめていた。 「何かパニック起こしたみたいで」 そう言われ豊川はyoshiの顔を覗き込む。 息は多少荒かったが落ち着いているようだった。 「ベッドに連れて行こう」 豊川がyoshiを抱き上げようとしたが、  「俺が連れて行く」 と光一はyoshiを抱き上げた。 ベッドへ寝かせるとyoshiは汗を大量にかいてるようで、 「タオルと冷たいモノ持ってくるよ」 と豊川は仮眠室を出た。 光一はyoshiの頭を撫でる。  さっきよりだいぶ落ち着いたような感じがして安心した。 眠っているのかピクリともしない。 ごめんなさい…  あれは誰に対して言っていたのだろうか? 自分はyoshiを殴った事はない。 殴られる恐怖を誰よりも知っているから。  でも、愛して方も分からない。  自我が芽生え反抗してくる幼いyoshiの扱い方が分からなかった。 叩いてしまいそうで、離れていた。 頭を庇うような仕草。  誰かに殴られていたはず。 誰に?  美嘉?  まさか…再婚相手? 光一はギュッと拳を握る。  怖かったに違いない。  大人になってもフラッシュバックするのだから。 「光一」 声をかけられ、我に返る。  「なあ、ちょっと電話してくるから嘉樹を頼む」 と光一は部屋を出た。

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