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思い出したくない事 8話
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「yoshi、薬…」
ナオはyoshiの部屋を開けて彼が居ない事に気付いた。
トイレ?
心当たりを捜すが居ない。
不安にかられた頃にスマホにLINEが届く。
yoshiから、友達の所に行ってくるね。
そんな内容だった。
友達?
日本に来て、こんな風に何も言わずに家を出て行く事は無かった。
友達の話しはあまり聞かなかったのに。
自分が知らない友達という言葉に寂しさを感じた。
仲良くなった友達が出来たのなら…
それはそれで喜ばないといけないのだろうけど、
どうしてだろう?
凄く、寂しい。
成長という形で自分から離れて行くのが嫌だ。
大人にならないで欲しい。
ずっと自分を中心に泣いたり笑ったり、怒ったり、寂しがったりして欲しい。
友達の所。これはきっと、友達じゃない。
そう直感した。
恋人。
自分より大切な存在。
出て来て欲しくないのに。
こんな遅くに迷惑だろう?帰っておいで…
返事をそう書いて、送ろうか悩む。
恋人との時間を奪う権利はない。
クリアボタンを押して削除する。
具合は?
そう書き直して送信した。
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「な、なんか緊張してきた」
車の助手席、ガチガチに緊張しているyoshi。
「どうした?」
緊張している理由を知っている豊川はクスクス笑いながら聞く。
「だって!…するわけじゃん?その…セックス?」
「そうだな。」
豊川は手を伸ばし、yoshiを引き寄せる。
その行動にyoshiは意識せずにはいられず、心臓がバクバクと動き出す。
な、なんだコレ?
なんでこんなドキドキしてんだよーっ!
「嘉樹、挙動不審だぞ」
落ち着きがないyoshiを見て豊川は笑う。
まるで学生の時の恋愛の続きのようだ。
好きな相手に想いを伝えて、初めて手を繋いだ事、キスをした事、ドキドキした時間を思い出した。
「勢いで来た感じだからな?…止めるならUターンするぞ」
抱き寄せた手が頭へと移り、撫でられた。
好きだと…
自分を好きだと言葉にしてくれた。
だからyoshiは覚悟を決めたのだ。
あんなに誘ったのに中々手を出さない豊川。
豊川には言っていない事がある。
お喋りや手コキだけだと言ったけれど、たまにフェラを強要されてした事もあるし、ある時は無理矢理下着の中に手を入れられて、後ろに指を突っ込まれた事もある……。その度にアレックス達が助けてくれた。怖かったけど、助けて貰えるし……なんて浅はかな考えてを持っていた。
そうやって今までやってきた。
お金を惜しげも無くくれて、その場だけでも優しくしてくれて。でも、そこには愛は無い……。
誰も同じかな?って思ってた。
でも、豊川は…
初めて会った時から気になっていた。
会う度にドキドキして、
キスをされて、フェラされて、ドキドキした。
「する!」
「なんだ、その決意表明」
豊川は声を出して笑う。
「た、たける」
yoshiは豊川を見つめる。
「ん?」
見つめ返すと、
「俺、マジで初めてだから…あの、あんま痛くしないで」
yoshiは目を合わせない。恥ずかしさで、目を伏せている。
恥ずかしさで紅潮した頬。
微かに震える身体。
あああーっ!
もう、この小悪魔!
冷静じゃいられなくなり、アクセルを踏む。
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「あら、帰ってたの?」
ゴミを出しに出た光一は麻衣子と入り口で会った。
「どこ行ってた?」
「友達を送ってきたのよ、ねえ、今回社長来てないのね」
「豊川か?新しい秘書の子が急病で、送って行ったんだ」
秘書とはもちろんyoshiの事。
「秘書?ふーん、可愛いの?」
「どちらかと言えば綺麗かな?」
そう答えると麻衣子は、複雑そうな顔をした。
「毎年来てくれてたのに、大事な人出来たのね」
いや、そうじゃない…と言いたかった。
でも、否定するのが面倒臭くて、
「なあ、誕生日パーティーって子供抜きでするものなのか?」
と話題を変えた。
これはこれで面倒臭い話題だ。
「何がいいたいの?」
少し緊張したような麻衣子の声。
「小さい智也が居るのに夜遅くまで騒ぐ理由を知りたい」
「興味ないくせに」
ぽつりと麻衣子は呟く。
「何にも、誰にも興味ないくせに」
麻衣子はそう言うと、先に部屋へと戻って行った。
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